新型コロナウイルス感染症の影響を受け、長らく訪日外国人旅行者の受け入れが停止されていました。しかし、2022年にコロナ水際対策が緩和されて以来、過去最高ペースでインバウンド旅行者が増加しています。この記事では、インバウンドの誘致において必要な対策やそれらの成功事例を紹介します。インバウンド対策のメリットや必要な準備、代表的な施策、成功させるポイントなども紹介していますので、ぜひご覧ください。
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INDEX
インバウンドの現状と今後の予測
JNTOのデータによると、2024年12月の訪日外国人旅行者数は推計値で348万人となり、1964年の統計開始以来、初めて単月として340万人を突破しています。また、2024年の年間で見ても3,686万人と過去最多となっています。コロナ前の2017年から2019年までの3年間の増加数が319万人でしたので、2023年からおよそ1000万人の増加がいかに急激かがわかるかと思います。
経済産業省のデータによると、2019年には3,188万人だった訪日外国人旅行者数は過去最高更新ペースで増加しており、2030年には6,000万人になると予測されています。宿泊、観光、飲食、航空、鉄道、小売など幅広い分野に及ぶインバウンドの経済効果は、2019年の4.8兆円から4倍近く増え、15兆円にものぼると考えられています。
インバウンド対策はなぜ必要か
政府は「2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人」を目標としてインバウンド対策を推進しています。インバウンド旅行者が増え続ける理由として、各国・地域における経済成長及び為替レート、ビザ発給要件やLCC(格安航空会社)の就航が挙げられます。インバウンドと為替は密接な関係があり、円安が進むことで、訪日外国旅行者の購買力が増し、日本への旅行意欲が高まります。
また、訪日旅行者の多くは、東アジア地域からの旅行者です。アジア経済の成長が続けば、海外旅行が可能となる所得層が増え、インバウンド旅行者の増加が期待できます。
加えて、近年、日本はビザの免除・要件緩和など訪日旅行の容易化に向けた取り組みを積極的に行ってきたこともインバウンド増加の一翼を担っています。政府は、ビザの免除・要件緩和の積極的な実施を目標として掲げており、訪日旅行者増加の追い風になると考えられています。さらに、日本とアジア方面の地域を結ぶ、LCCの就航便数が増えたこともインバウンド増加の要因に挙げられます。
さらに、日本では少子高齢化による人口減少の影響で、国内旅行者が減少傾向にある中、訪日旅行者数は、コロナ禍の落ち込みから一転して回復見込みであることも理由の一つです。国内旅行者よりも訪日外国人旅行者の消費額の方が大きく、滞在日数も長いため、経済効果は大きくなることも予想されています。
参考:第2章 第3節 今後のインバウンド需要拡大への展望 - 内閣府
インバウンド対策を実施するメリット
昨今注目されているインバウンド対策にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
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経済効果が期待できる
先述したように、訪日外国人旅行者1人当たりの消費額は国内旅行者よりも大きいため、旅行中の消費行動により経済効果が期待できます。2023年度の訪日外国人旅行者1人あたりの消費額は21万2,193円でした。これは国内旅行者1人あたりの消費額は4万4,034円の5倍弱に相当します。 宿泊費をはじめ、飲食費や交通費、お土産の購入費など、さまざまな産業に経済効果をもたらすことが期待できます。
地域活性化に繋がる
訪日外国人旅行者が増えると、休日のみならず平日の宿泊需要が高まり、お土産店や飲食店への経済効果の向上が期待でいます。さらに、旅行者がSNSなどで発信することで、訪日外国人旅行者が多く訪れてくれる可能性が高まります。訪日旅行者が増えることで宿泊施設や商業施設などの開発が進めば雇用も増えるなど、地域の活性化にも繋がります。
国際的競争力を強化できる
多言語対応化、訪日外国人旅行者のニーズに合った商品の開発など、インバウンド対策に取り組む企業は国際的競争力が上がります。利便性を高めるサービスの導入が促進されれば、日本企業全体の国際的競争力も向上します。
顧客層を拡大できる
訪日外国人旅行者を対象とした商品やサービスの提供に取り組み、新たな市場への参入や販路を広げることで顧客層の拡大に繋がります。顧客層が拡大すると売り上げアップだけでなく、食事、買い物といった日本の文化に触れたり、歴史や伝統文化、自然を身近に感じたりする機会が増えるため、日本に対するブランドイメージが向上します。また、サービスを受けたり、親切にされたりする経験から、日本に対してよい印象を抱く人が増えることによる、顧客層の拡大も期待できます。
国際化・異文化交流が促進される
インバウンド対策を進めていると、訪日外国人旅行者と地域住民との異文化交流が促進されます。また、訪日外国人旅行者に向けた施策を実施するなかで人材が国際化したり、多様な働き方ができるようになったりする点もメリットです。
インバウンド対策を成功させるために必要なこと
インバウンド対策を成功させるには、まずは、多言語への対応と決済サービスの充実が必要です。
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サービスの多言語対応
訪日外国人旅行者に施設や観光スポットの魅力を存分に理解してもらうためには、自社サービスやWebサイトの多言語化が必要です。また、従業員に語学研修を実施したり、多言語対応が可能な人材を雇用したりすることも大切です。例えば、飲食店であれば、看板やメニューをはじめGOOGLE MAP、WEBサイトの情報等も多言語化する、多言語対応のタブレットで注文できるようにするなどが挙げられます。
訪日外国人向けの決済サービスの導入
海外はキャッシュレス決済化が進む地域が多い傾向にあります。一方、日本では現金に対する信頼性が高く、キャッシュレス決済はなかなか浸透していません。顧客獲得の機会を損失しないためにも、クレジットカード決済や電子マネー、QRコード決済など、利用できる決済サービスの種類を増やすこともポイントです。訪日外国人旅行者の増加を見越して、受け入れ側も柔軟に対応することが求められます。
地域コミュニティの主体性
地域コミュニティが主体となり、地元企業や団体との協力体制のもと、体験型ワークショップや地元産品の試食会、地元の宿泊施設、飲食店とのパッケージツアーなど訪日旅行者にとって魅力的なコンテンツを提供することは、地方都市のインバウンド戦略において重要です。
地元住民と訪日旅行者との交流の機会を創出することで、相互理解と友好関係の構築につながります。
外国人目線でのマーケティングリサーチ
外国人目線のマーケティングリサーチは、訪日外国人旅行者のニーズに応えるために重要です。言語や文化、生活習慣が国内旅行者とは異なる訪日外国人旅行者は、ニーズも異なる可能性があります。外国人目線での価値観を理解し、彼らが何を喜び、何を求めているのかを把握することが求められます。
外国人のニーズ調査を調査する「インバウンドリサーチ」の結果をもとに、必要なサービスや対応をしていくことが重要です。
インバウンド対策の代表的な施策・活用できるツール
インバウンド対策にはどのような施策があるのでしょうか。インバウンド対策の代表的な施策や活用できるツールを紹介します。
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SNSを使った情報発信
SNSで情報収集をしている訪日外国人旅行者は少なくありません。より多くの訪日外国人旅行者に情報を発信するためには、SNSを積極的に活用することが大切です。観光地を訪れた訪日外国人旅行者がSNSで情報を拡散してくれれば、さらなる訪日旅行者の誘致も期待できます。SNSを活用する際はハッシュタグを入れるほか、文字が読めなくても魅力が伝わりやすい画像や動画を活用することもポイントです。
旅行メディア・ポータルサイトへの掲載
訪日外国人旅行者を対象に運営している旅行メディアやポータルサイトに登録し、情報を掲載することも効果的です。旅行メディアやポータルサイトではさまざまな言語に対応しているだけでなく、有名なサイトなら情報の信頼度も上がります。
Googleビジネスプロフィールの活用
Googleビジネスプロフィールとは、Google検索やGoogleマップ検索で表示されるスポットの基本情報や写真の掲載、予約受付が可能になるサービスです。利用料は無料で、ユーザーのアクセスデータ分析もできます。検索で表示されるようになれば、新規顧客を増やせる可能性があります。
多言語対応アプリ・AI通訳機の導入
多言語に対応したアプリを導入することも1つの方法です。例えば、飲食店で多言語対応アプリを導入すれば、日本語が分からなくてもスムーズに注文できるなど満足度向上にも繋がります。収集したデータをマーケティングに活用できる、従業員の負担が軽減されるなどのメリットもあります。多言語に対応できる人材が確保できない場合は、AI通訳機を導入することも効果的です。
地域間連携ができるプラットフォームの作成
複数の地域が協力してインバウンド誘客を強化するプラットフォームを作成し、地域イメージやブランド力の向上に努めることも有効です。地域独自のデータを連携することで、インバウンド旅行者の変化や属性の把握に活用できます。
日本好き外国人のコミュニティの構築
地域と外国人を繋げる機能を設置することで、地域へのインバウンド集客の後押しにつながります。外国人の方がオンラインで会話ができるオンラインコンシェルジュの構築は、日本が好きな外国人と日本の各地域との架け橋となることも期待できます。
インバウンド対策の成功事例【5選】
ここでは、インバウンド対策の成功事例を5つ紹介します。
CASE01徳島県にし阿波エリアのさらなる価値向上を目指し「JTB BOKUN」を導入した事例
にし阿波の山間部に伝わる伝統的な文化を地域資源に観光を推進していた一般社団法人そらの郷様は、オンライン予約の整備やインターネットによる情報発信、決済手段の多様化が課題でした。そこで、体験アクティビティ事業者向けのオンライン予約システム「JTB BOKUN」を導入します。JTB KOBUNの導入により地域一体となった体験コンテンツの販売が可能になるとともに、情報発信や情報発信の効果検証ができるようになりました。
CASE02「ふるさと会員プログラム」を活用し、広島県東部のファン構築を目指した事例
広島県東部の福山市・尾道市・三原市・竹原市では、コロナ禍からアフターコロナのインバウンド誘客などを目指し、訪日外国人旅行者向けに地域の魅力を発信することを考えていました。コロナ禍でも日本に興味がある外国人に効果的に情報発信をしてファンを増やすことが課題です。
4市はファン構築のため、アジア向けマーケティング「ふるさと会員プログラム」を活用しました。地域特産品BOXの販売や地域紹介などを掲載するふるさと会員サイト制作などを実施すると、4市はそれぞれ100人以上の台湾人ふるさと会員を3週間程度で獲得することができました。
CASE03「平和×アクティビティ」の広島でしかできないアドベンチャーツーリズムで地方創生を目指す事例
広島市中心部から少し足を伸ばせば、美しい自然や清流が多く残されているものの、近隣地域への来訪が伸びないことが課題でした。そこで、通過型観光地から滞在型観光地へのシフトを目指し、「平和×アクティビティ」の広島でしかできないアドベンチャーツーリズムを造成、在日外国人を招聘したモニターツアーの実施により、広島県域の新たな魅力発見につながりました。
CASE04「ウエディングツーリズムの目的地」として東北へ誘客促進を図った事例
観光復興を目指す東北地域では、官民、観光関係者、地域住民が一体となり、訪日外国人旅行者の誘致に取り組んでいました。ところが、日本は香港の人がフォトウェディングをしたいエリア1位に選ばれていたのにもかかわらず、東北の認知度が低く効果的なアピールができませんでした。そこで、香港に住む旅行者やカップルを対象としたイベントへの出展や香港メディアの招請を行います。その結果、東北の認知度が高まり、誘客の促進に繋がりました。
CASE05埼玉県川越市の人流計測のトライアルを行った事例
埼玉県川越市ではインバウンド誘致やオーバーツーリズムなど、観光に関するさまざま課題を抱えていました。そこで、人流データを活用するため、市内最大のイベントである川越祭りの前後に人流計測のトライアルを実施します。測定機器を複数設置し、期間限定でデータを測定したところ、インバウンド旅行者を含む旅行者の動向が可視化され、データ測定の有用性が証明されました。データを活用すれば、データに基づく施策の検討も可能と考えられます。
インバウンド対策で成功するためのポイント
インバウンド対策で成功するために意識したいポイントが4つあります。
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訪日外国人の視点に立つ
日本人と訪日外国人では、文化や習慣、好みが異なります。インバウンド対策を強化する際は、訪日外国人の視点からニーズを抑えることがポイントです。訪日外国人が求めているものを分析して商品やサービスに取り入れることで、満足度向上やリピーター獲得に繋がります。
ターゲットを明確に設定する
ターゲットを明確に設定することもポイントです。ターゲットとする国や年齢層、性別、予算などを明確にすることで、ターゲットに合わせたアプローチ、商品やサービスの提供が効果的にできるからです。
訪日外国人向けのブランディング・PR方法を選択する
訪日外国人向けのブランディングを徹底して、サービスや商品の認知度を上げることも重要です。そのうえで、訪日外国人向けのPR方法を選択します。PR方法には、WebサイトやSNSを活用した情報発信、国際的なイベントへの参加、体験型プログラムの実地などがあります。なお、ターゲット層によって利用しているSNSは異なるため、Instagram、X、Facebookなど情報発信のツールは、ターゲットとする訪日外国人旅行者に合った媒体を選ぶことも大切です。
満足度を高める体験価値を提供する
地域ならではの文化や歴史、自然など、日本でなければ味わえない体験価値を提供することで満足度が高まります。見学するだけでなく、実際に体験してみる体験プログラムやサービスなどを取り入れて記憶に残る特別な体験を提供します。
まとめ
訪日外国人旅行者が急激に増加している今日、顧客層を拡大して地域の活性化および経済活性化を目指し、ビジネスチャンスにつなげるためにも、インバウンド対策の強化が必要とされています。インバウンド対策ではターゲットを明確にしたうえでニーズを把握し、ターゲットに合った施策を取り入れることがポイントです。成功事例で紹介したように地域や企業が抱える課題に沿った対策を検討・実施すれば、顧客満足度の向上や誘客の促進が期待できます。
インバウンド数値目標や国としての現在の動き、観光に関するトレンドを掲載しているこちらの資料もインバウンド対策の参考に活用いただけます。インバウンド対策の強化を検討している場合は、ぜひご覧ください。