体育館で真剣にボールを見つめる人たち。コート外で観戦する人たちも、一緒にボールの行方を追っています。11月に川崎市幸区で、ボッチャ大会が開催されました。 ボッチャは、性別、年齢、障害の有無に関わらず、誰もが楽しめるスポーツとして広まっています。現在では、地域活性化・地域間交流にも活かされています。 本記事では、選手や運営関係者の声をお届けしながら、ボッチャが生み出す地域活性化や地域間交流の様子をお届けします。
ボッチャとは
赤・青のそれぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、いかに近づけるかを競います。
熱気溢れる、ボッチャ大会に潜入!
11月某日、川崎市幸区にある幸スポーツセンターにて、「第3回幸区ボッチャ大会」が開催されました。
本大会は、90チーム以上の応募から抽選で選ばれた64チームが参加。伊東市で開催された大会の優勝チームも招待され、大いに盛り上がりました。
川崎市幸区では、令和元年度からボッチャの普及啓発活動を積極的に行っています。地域でボッチャを楽しめる場所を増やしながら、このような大会を定期的に開催しています。
大会には、多くの地元企業が協賛をしており、地域と企業のつながりを生み出していることがわかります。もともとボッチャは、重度脳性麻痺者や同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツのため、企業は協賛をすることで、ダイバーシティの推進にもつなげています。
また、社員同士でチームを結成し参加している企業もあり、ボッチャを体験しながら、地域の人々との交流を楽しむ様子も見られました。
大会には、子どもから大人まで幅広い年齢の方々が参加。1チーム3人で構成されているなか、町内会の集いや家族、会社の仲間同士など、関係性もさまざま。大会でこれだけ幅広い方々が混ざり合うスポーツは、あまり見かけません。
選手がボールを投げれば、チームメンバーや観客はボールの行方を見守り、一喜一憂が起こる。一投によって勝敗がひっくり返ることもあり、仲間たちとの喜びを分かち合う瞬間があれば、悔しさに涙を流す瞬間も……。
さまざまなドラマが生まれるたびに、会場の雰囲気がひとつになっていました。
誰もが夢中になる!ボッチャの魅力とは
今回の大会に参加した64チームの方々は、年齢、性別、関係性、競技歴もバラバラ。なぜ、こんなにも多様な人たちが競技を楽しんでいるのか。その魅力を選手のみなさんに伺いました。
01真剣勝負のなかで得られる人とのつながり
伊東市からの招待チーム「ジャンヌ・ダルク」のみなさんは、月に2回地元のコミュニティーセンターで練習をしており、そこに集う仲間でチームを結成。競技歴は2ヶ月~半年と短いながらも、伊東市で開催された大会で優勝したことで、今大会の参加が実現しました。
ボッチャは、大きな動きや激しい動きがないため、年齢を重ねていても気軽に楽しめることが魅力とのこと。1回戦は、ひ孫ほど年齢が離れたチームと対戦。普段の日常生活ではなかなか真剣勝負をすることはないようで、ボッチャのドキドキ感には病みつきな様子でした。
また、以前から幸区のチームともつながりがあり、8か月ぶりの再会に会話が弾んだそうです。そんな交流も競技の楽しみだと語っていました。
02交流を通じてダイバーシティを意識する
JTB川崎支店で働く社員がチームを結成し、本大会に参加していました。過去には、市長杯に参加するなど、社内でボッチャを楽しむ社員が増えているそうです。チームの方々からは、こんな声を聞きました。
- 「ルールが覚えやすく、誰でも競技に参加しやすいことは大きな魅力です。」
- 「試合の最中には、チーム内のメンバーと作戦を話し合うことが頻繁にあり、仲間とのコミュニケーションも深まります。」
- 「パラリンピックの競技にもなっているボッチャを経験することで、ダイバーシティを身近に意識するようになりました。」
03チームワークを深め、64チームの頂点に
今大会の優勝チーム、「下平間みどり会」のみなさんです。約1年前に町内会で競技道具を購入したことをきっかけに、ボッチャをはじめたそう。
現在、町内会では週一回、40歳~90歳の方々が集まり練習をしています。練習後はお酒を飲みながら反省会を行うことで、選手同士の仲も深まっているようです。
3人のプレーを見ていると、白いボールに近づける役と相手のボールを弾き飛ばす役など3人で役割分担をしていることがわかります。今回の大会では、3人の役割分担がうまく機能し、チームワークの良さが優勝につながったと語っていました。
ボッチャで生まれた地域活性化と地域間交流
ここからは、地域でボッチャの普及に関わる人々の声を紹介します。
――幸区とボッチャの歩みを教えてください。
- 赤坂 氏
- 幸区ボッチャ大会は、今回で3回目を迎え、90を超えるチームの応募がありました。回を追うごとに注目度が高まり、練習も活発に行われ、地域に根付いてきていると感じます。
多くの企業様がスポンサーとして協賛してくださり、区民と企業の交流が深まっている様子も伺えます。
――競技の魅力はどんなところですか。
- 赤坂 氏
- ボッチャの魅力は、成長を共有できる点だと思います。とある練習では、それまでプレーをしたことがなかった小学生がはじめてボッチャに挑戦。はじめは手探りでボールを投げていたものの、コツを掴んでからはみるみる上達。
大人顔負けのプレーで周囲の人たちを驚かせていました。スポーツを通じた子どもの成長に、その場にいた全員が喜びを感じていましたね。
――ボッチャを推進することで、地域にどんな影響をもたらしていきたいですか。
- 赤坂 氏
- 地域活性化において、コミュニケーションや人と人のつながりは欠かせません。ボッチャを通じて、人々のつながりが生まれることで、「顔の見える関係性」が生まれ、街全体の安心感につなげていければと思います。
加えて、今日は伊東市から招待チームが来てくださり、地域間交流が実現しました。今後は、選手やチームの交流だけでなく、チームの関係者や観客の交流を生み、地域経済の活性化につなげていきたいです。
――幸区として、ボッチャの普及に取り組みはじめたきっかけを教えてください。
- 髙橋 氏
- 幸スポーツセンターは、約3年前から幸区におけるボッチャの普及啓発に取り組んでいます。当時は、体育館の改修を行うタイミングだったため、区民の方々がスポーツをする場所が一時的になくなってしまう状況でした。
そこで、年齢関係なく限られたスペースでも楽しめるボッチャに注目し、区内の小学校や町内会館などに出向いて、スポーツに取り組む機会を提供していきました。
――スポーツ振興の観点で、ボッチャにどのような可能性を感じましたか。
- 髙橋 氏
- ボッチャは、知らない人たち同士でも一緒に楽しめ、コミュニケーションツールにもなります。試合中だけでなく、試合前後に対戦チーム同士が言葉を交わしている様子をよく見かけます。
まさに、人と人をつなげるスポーツだと感じています。
――今回、伊東市のチームを招待した背景を教えてください。
- 髙橋 氏
- 以前、幸区の大会優勝チームが優勝賞品として協賛いただいた伊東温泉ホテル暖香園の宿泊券を使って、ボッチャサークルの仲間の方9名で伊東市を訪れ、伊東市民の方々との交流も実現できました。
その交流の様子を知ったことで、私たち実行委員会も同様の体験をお届けしたいと思い、ご招待しました。
――今後の展望を教えてください。
- 髙橋 氏
- これまでは、私たちが足を運びながらボッチャの魅力を伝えてきましたが、少しずつ人から人へと競技が広がってきていることを感じています。今後は、その動きを加速できるよう、魅力の伝え方を工夫したいと思います。
――伊東市は、多くの市民の方々が日常的にボッチャを楽しんでいます。ボッチャが広まったきっかけを教えてください。
- 利岡 氏
- 伊東市がボッチャの普及に取り組みはじめたのは、約3年前です。それ以前は、多くの人がやり方がわからない・やれる場所がない、といった状態でした。
伊東市は、東京パラリンピックのボッチャ個人の金メダリストである杉村英孝選手の出身地です。杉村選手の活躍後、市民も競技を知ってはいたものの、なかなか触れる機会がありませんでした。そこで、市民にボッチャを体験できる場所を用意していったことがきっかけです。
――具体的にどのようにして普及していったのでしょうか。
- 利岡 氏
- モニターツアーや体験会、イベントの開催など、さまざま活動を実施し、普及に関わる人を増やしながら、みんなで盛り上げていきました。JTBの担当者からは、伊東市の観光資源である温泉と組み合わせて、温泉ボッチャを提案いただきました。身近にボッチャができる場所が増えたことで、市民にも徐々に広まっていきました。
道具を置いただけでは決して普及しません。競技の認知度が上がった状態から、市民がプレーする状態につなげることが普及のポイントでした。
――今回、幸区の大会に伊東市のチームが招待され、スポーツを通じた交流が生まれました。
- 利岡 氏
- 私たちは、ただボッチャを普及させるだけが目的ではありません。観光や旅行などと連携しながら地域同士のつながりを生み出すことに力を入れています。
ボッチャを通じたつながりができることで、互いの地域の人々が行き来し、交流が生まれる。「ボッチャX観光」という新しい取り組みにつながっています。
ますます広がるボッチャの輪
最後に、本大会をはじめ、幸区や伊東市におけるボッチャ普及に関わってきたJTBの大谷信喜に、地域活性化や地域間交流におけるポイントを聞きました。
――JTBは、以前からボッチャの普及に関わってきました。今大会ではどのような変化を感じましたか。
- 大谷
- これまで、JTBは伊東市における「温泉ボッチャ」の普及や各種大会の協賛、双方の関係者様の繋ぎ合わせなど、さまざまな取り組みを行ってきました。
取り組みを重ねるたびに、関係者様と考えやビジョンの共有を深めてきました。その結果、今回のようなスポーツをハブとした地域間交流につながったと思います。
- 「温泉ボッチャ」の詳細はこちら
- https://www.jtbcorp.jp/jp/jtbeing/2023/02/01.html
――現在、競技人口が増えており、さらなる広がりが期待されています。普及におけるポイントを教えてください。
- 大谷
- 人々が競技に触れる機会を増やしていくことが大切だと思います。ボッチャはコミュニケーションを加速させるスポーツ。「温泉ボッチャ」のように、人が集う場所でさまざまな活用を模索していくことが普及のポイントだと思います。
――今後JTBは、どのようにボッチャと関わり、普及していくことを考えていますか。
- 大谷
- 特別なハードルを取り払い、日常に関わる提案をしていきたいと思っています。
企業の研修やチームビルディング、商店街の賑わい創出など、さまざまな場所でボッチャは活用できます。そこで、シーンや目的に応じた支援プログラムを作成していきたいと考えています。
そういった活動を通じて、競技の裾野が広がり、普及につなげていければと思います。
――活用の可能性がいろいろあるのですね。
- 大谷
- ボッチャは、誰もが簡単にでき、競技人口が増えている発展途上のスポーツです。だからこそ、活用の仕方はまだまだあります。
その点、自治体関係者の方々や関係団体の方々と協議をしながら、新たな活用方法を見つけ出し、競技の普及を進めていければと思います。
まとめ
年齢や性別に関係なく、誰でも気軽に楽しむことができるボッチャ。地域の人々にスポーツに取り組むきっかけを提供し、コミュニケ―ションツールとして、地域の交流機会の創出にも貢献しています。伊東市と川崎市は、ボッチャ大会を通じたつながりができたことで、お互いの地域を行き来するなど、地域間交流が生まれました。人と人をつなげ、地域と地域、地域と企業をつなげるスポーツ「ボッチャ」を活用して地域活性化を目指していきませんか。