「産官学連携」という言葉を耳にする機会が増えましたが、誰が何のためにすることなのだろう?という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。産官学連携は、地方創生やSDGs、サステナビリティなど関連することが多い取り組みです。自治体にとっては、企業や学校に対して地域の魅力をPRすることにつながり、地域活性化に寄与できる可能性があります。地域課題解決に向けて取り組む自治体・DMOの担当者の方はぜひお読みください。
産官学連携とは
「産」とは民間企業やNPO法人、「官」とは国や地方自治体、「学」とは大学や高校などの教育機関を指します。産官学連携とは、一般的に大学などの研究機関の研究成果や技術、ノウハウを企業やNPO法人が活用するとともに、国や自治体が実用化や産業化への後押しをする取り組みのことを言います。三者が連携して取り組みを進めることから産官学連携と言われています。
産官学連携は、国や自治体にとっては、新たな産業の創出や雇用の創出、地域の活性化につながる点がメリットです。一方、大学などの研究機関には、研究を進めるうえで、消費者や企業のニーズを的確に捉えることができるといったメリットがあります。企業にとっては、自社にはない外部資源を活用できるという大きなメリットがあります。
産官学連携の目的とは
産官学連携の目的は多岐にわたりますが、政府の指針として明確に提示・推進されているのが、「イノベーションの創出」と「地域の活性化」です。
イノベーションの創出
文部科学省および経済産業省は、イノベーションの創出とは「科学的な発見や発明、新商品の開発を通じて新しい価値を生み出し、普及させることで社会に大きな変化をもたらすこと」と定義づけています。国際的な競争が激化している中で経済を発展させていくためには、イノベーションの創出が不可欠であるとして、共同研究や受託研究というかたちで産官学連携を取り入れています。2006年の科学技術基本計画から推進されているため、産官学連携は科学技術の分野であると捉えている人も多いかもしれません。
地域の活性化
文部科学省は、地域の産官学連携を支援する「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」を行っています。これは地域産業の発展を担う人材育成や雇用の創出が目的です。
地方では、大学進学と卒業して就職するタイミングで地元を離れるといった、若い世代の人口流出が起きています。人口が減少し続けると、地域社会が維持できなくなるのは間違いありません。そこで、地域課題解決の研究、地場の産物を活用した商品開発、地元志向の教育カリキュラム導入、地元企業のインターンシップ促進など、魅力ある進学先、就職先の創出に取り組んでいます。
なお、JTBが考える産官学連携のゴールは「事業化」です。三者の持つ強みを関連付けて、新たな領域の開発や拡大を推進し、事業として確立することが重要と考えます。
注目が集まる「地方創生・地域課題解決への取り組み」
現在、多くの自治体が人口減少や高齢化、事業の後継者不足、貧困家庭の増加といった課題を抱えています。このような状況から、地域課題を解決していこうという機運が高まっています。
SDGsの推進
その機運を生み出している大きな要因は「SDGs=Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」です。目指しているのは、世界中のあらゆる人々が平等で安全に生活できる社会で、達成するために17の目標が掲げられています。これらは政府や自治体だけに向けられた目標ではありません。企業も学校も地域も、地球上のすべての人々が達成のために取り組むべきであるとされています。
SDGsと地域の課題
世界共通の目標として掲げられている17の項目の中には、地域の課題と重なるものがあります。
目標01貧困をなくそう
あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
目標03すべての人に健康と福祉を
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
目標04質の高い教育をみんなに
すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標11住み続けられる
まちづくりを
都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする
なぜ、産官学連携が必要なのか
地方創生、地域活性化へ向けては人口減少、高齢化、若年層の流出など、多くの課題が絡み合っているため、企業・自治体・学校が単独で解決をするのは容易ではありません。それぞれの強みを活かして取り組むことが重要です。
三者の強みを活かした「共創」
自治体の強みは、法律や条例、規制や公共的なインフラ整備において欠かせない存在です。例えば、事業やサービスを行うために必要な計画や整備などが挙げられます。
企業の強みは、収益化やサービス確立のノウハウ、その経験を活かした実行力にあります。また、社会への対応力や判断力の高さも、産官学連携に有益とされる要素です。
「学」すなわち学生の強みは、若い世代ならではの柔軟な思考や豊かな発想です。常識や定説にとらわれない発想によるイノベーションの創出は、産業界・経済界の歴史の中で繰り返されてきました。また、SNSやデジタルツールを使いこなし、高い発信力や影響力を持つことも大きな強みといえるでしょう。
SDGsでも提唱されている「共創」
SDGsには「パートナーシップで目標を達成しよう」という目標が、17番目として最後に設けられています。パートナーシップは広義的な言葉であるものの、SDGsの16の目標を達成するためには連携・共創が必要であると捉えることができます。
産官学連携が生み出すメリットとは
産官学連携により、さまざまな価値の創出や課題の解決に成功することで、地域の人々には大きなメリットがもたらされます。では、実際に取り組みを行った側には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
企業・団体
自治体や学校との連携は、新たなマーケットの開拓を意味します。他にも新たな事業を展開することで、さらにビジネスチャンスが広がります。また、自治体は社会的信頼が高いため、連携した実績が企業価値を高めます。大学の研究機関との連携では、自社にはない専門知識や技術を吸収できることも大きなメリットといえます。
自治体・行政機関
民間企業との連携により、住民の立場や目線に近い取り組みができます。その結果として、行政サービスの質向上を実現できます。また、企業が持つノウハウ、大学が持つ専門知識を取り入れて、サービスや事業を改善していくこともできます。
学校・教育機関
研究者や学生が研究成果を実践する場を得ることができます。実際に課題を解決しなければならないという使命感が、モチベーションや研究能力の向上につながるでしょう。また、企業や自治体との連携や研究成果の発信により学校の認知度が高まり、入学する学生の増加が見込めます。
産官学連携の事例
次に、産官学連携の事例を紹介します。
CASE01「援農ボランティアツアー」
日本一のりんごの生産量を誇る青森県弘前市では、りんご産業において、高齢化、人口減少による後継者の確保、農繁期における人手不足が課題でした。そこで、弘前市とアサヒビール、ニッカウヰスキー、JTBの官民が連携して、りんご農家の援農を目的とする「ひろさき援農プロジェクト」を発足し、援農ボランティアツアーを企画・実施しました。
CASE02研修プログラム「Rethink YAHATA」
「SDGs未来都市」北九州では、地域の「交流人口の増加」「SDGs認知度の向上」に貢献するため、北九州市立大学地域創生学群とJTBが協業し、教育旅行プログラム「Rethink YAHATA」を開発しました。減少していた域外からの修学旅行生の増加、 次世代を担う若者にSDGsを自分事として考えるきっかけをつくりました。
まとめ
今回は「産官学連携」についてお届けしました。昨今、旅行者が楽しむだけではなく、そこに住む住民の豊かな生活も持続できるような「サステナブル・ツーリズム」への取り組みが求められています。産官学連携の動きは、地方創生を推進する上でも重要度が高まり、地域活性化の一つの手段としても多くの地域で積極的に取り入れられるようになっています。
「人口減少」、「高齢化」、「環境問題」、「都市部への一極集中」「デジタル化への対応の遅れ」「ゼロカーボンシティの実現」など、地域が抱える課題は多様化、複雑化しているため、単独で課題解決を図るのは容易ではありません。企業・自治体・学校それぞれの強みを活かして共に取り組むことが重要です。
また産官学連携は、自治体にとって、新たな産業の創出や雇用の創出、行政サービスの質向上、地域の活性化などさまざまなメリットがあります。地域イノベーション創出という観点でも非常に有益な取り組みだと言えます。
まずは小さなことからでも始めてみることが大切です。この機会に、「産官学連携」の取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。