2023年3月、北海道日本ハムファイターズが「世界がまだ見ぬボールパーク」として「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」を開業します。32ヘクタールもの広大なエリアには、新球場「ES CON FIELD HOKKAIDO」を始め、さまざまなパートナーとの共創により、ホテルや飲食店、ミュージアム、サウナなど多数の施設ができる予定です。開催したWEBセミナーでは、スタジアムを起点として、「スポーツを核とした持続可能なまちづくり」や「北海道とスポーツの価値の融合」にどのように取り組んできたのか、プロジェクトの推進者にお話を伺いました。本記事では、その内容をダイジェストでお届けします。
INDEX
セミナー開催概要
- 開催日
- 2022年10月27日(木) 11:00~12:00
- 開催方式
- オンライン開催
プログラム
- 主催者挨拶(JTB)
- 講演「スポーツとエンターテイメントを核としたまちづくり~地域と企業の共同創造空間~(株式会社ファイターズスポーツ&エンターテイメント)」
- ボールパーク構想から建設に至る経緯
- ボールパークの概要と現在の進捗状況
- なぜ企業との共創が必要か、地場企業からグローバル企業までそれぞれの視点から
- 地域にもたらす効果と自治体と一体となったまちづくりへ
- ボールパークとJTBの共創事業のご紹介(JTB)
- 質疑応答
講演者紹介
「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」とは?
概要
「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」は、野球興行・新球場の保有運営などを担う株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメントが主体となって、自治体やさまざまな企業と総工費600億円以上をかけて推進しているプロジェクトです。
場所は、北海道の札幌市と新千歳空港の中間地点に位置する北広島市。新千歳空港から電車で約20分、札幌市内からも車で30分程度と交通アクセスは良好で、自然豊かな場所でもあります。
小林氏曰く、人口200万人弱の札幌市ではなく、人口6万人弱の北広島市に建設を決めた理由としては「60分圏内のアクセス人口」がカギになったそうです。「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」を起点にした時の60分圏内のアクセス人口は、およそ220万人。この点から、北広島市には立地ポテンシャルがあると判断したそうです。現在は、北広島駅前の再開発もすでに着工しています。
コンセプト
ボールパークとは、「野球スタジアムを中心に、公園や商業施設などが複合的に併設されている空間」を指します。アメリカでは、このボールパークを中心としてまちづくりが行われる事例もあり、今回のプロジェクトでも参考にしたそうです。
また、自治体や地域住民、パートナー企業、ファンと共にボールパークを通して「共同創造空間」をつくり、スポーツの価値と北海道の価値を融合した新しい街づくりを目指しています。この「共同創造空間」という言葉を非常に大切にされています。野球興行の会社だけではなし得ない地域社会の活性化や社会課題の解決へ貢献できるようにパートナー企業、ファンの方々、地域の方々とともに取り組んでいくことを念頭に置いています。
「共同創造空間」が目指す世界観とは?
小林氏曰く、目指す世界観としては大きく4つあるとのことです。
1つ目は、「スポーツと北海道を融合した新しい街づくり」です。なかなか野球人口が増えていかない中で、「スポーツの価値」だけではなく、北海道という世界に通用する価値を主軸に据えながら、プロジェクトを進めていこうということです。
2つ目は、「野球事業と非野球事業のMIX」です。野球はあくまでエンターテインメント。少子高齢化社会の中で、競技者人口を増やすということではなく、しっかり観戦者人口を増やしていくことを意識しており、野球以外に広がるさまざまな事業へ領域を拡大していこうと考えています。異業種から多くのパートナーが参画していますが、野球と異業種の方々を掛け合わせ新たな事業をつくっていくことで、野球に興味のない方々にも来場いただけるエリアを醸成していくとのことです。
3つ目は、「パートナーとの共創による多種多様な方々が集うエリア」です。本プロジェクトでは、官民学の多岐にわたるパートナーと共に街をつくっていくことを意識しています。例えば、農業用トラクター大手の株式会社クボタ様と北海道大学様の3社で連携協定を結び、地域の農業へ貢献する取り組みを進めているそうです。
4つ目は「球場を核としたプラットフォーム事業」です。プロジェクトの牽引者としてやっていきたい、ボールパークに来ていただいた方々と多様な商品・サービスを提供するパートナーを結び付ける基盤をつくりたいと考えています。パートナーとの間で共創連携し、イノベーションを起こしていき、社会課題を解決していこうとしています。
北海道の自然という資源をテコに野球への興味に関係なく、多種多様な方々が集えるエリアとして、77億人のグローバルなマーケットに切り込むことを念頭に活動しています。
共創のしかけ ~オール北海道ボールパーク連携協議会~
民間との連携も特徴的です。北広島市とファイターズが事務局機能を担う「オール北海道ボールパーク連携協議会」を2019年7月に設立しています。メンバーは、周辺市町村、交通事業者、ご参画いただく企業の方々です。この連携協議会のもと、さまざまな分科会を立ち上げ、諸課題の解決、北海道の価値向上、互恵関係の構築を進めています。
「共同創造空間」による地域活性化の取り組み
多くのパートナーとつくる「共同創造空間」で、地域活性化のさまざまな取り組みが行われます。いくつかの取り組みをご紹介いただきました。
取り組み01 SDGsの取り組み
「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」ではSDGsに取り組んでおり、17の目標のうち、特に「4:質の高い教育をみんなに」「11:住み続けられるまちづくりを」「17:パートナーシップで目標を達成しよう」の3つを重視しています。
具体的には、小学生以下の「ES CON FIELD HOKKAIDO」への入場無料化や、EVバスを活用した拠点間輸送の整備、産官学の連携による事業の推進などです。
取り組み02 地域のPR・観光の拠点化
新球場の機能として意識しているのが、「ショーケース機能」と「観光ハブ機能」です。ボールパークを起点に道内外の旅行者を集客し、道内全域への旅行を促すことを目指していきます。ショーケース機能の具体例としては、選手による各地域のPRや各地の特産品を味わうイベントの開催などです。新球場とFビレッジで各地域をしっかりとPRしていくそうです。また観光ハブ機能の具体例としては、ボールパーク発着の道内観光地周遊ツアーをプレミアムバスで行ったり、サイクルツーリズムの推進として、テナントとして出店予定の自転車メーカー スペシャライズド・ジャパン合同会社様と連携し、レンタサイクルを提供したツアーを行う予定です。また北海道はサラブレッドの産地ということから、東京の乗馬クラブ銀座様との連携で乗馬の本格的なシミュレーション施設も設け、ここで体験していただいた後に、実際に北海道の牧場に出かけていただくような連携も考えています。
取り組み03 地域のコミュニティ形成
新たなボールパークでは、地域のコミュニティをしっかり開発していくことも目指しています。コミュニティ形成のためのしかけをいくつかご紹介いただきました。
01F VILLAGE GARDEN
「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」内には、北海道らしい自然を五感で感じられる「F VILLAGE GARDEN」というガーデンが3カ所設けられる予定です。このエリアでは、ガーデンを一緒に手入れすることで新たな交流が生まれることを目的に「ガーデンサポーター」を募集。すでに申し込みが来ているそうです。
02子どもの遊び場
エリア内には、子どもの遊び場が2カ所あります。そのうちの1つである「リポビタンキッズ PLAYLOT by BørneLund」は、連携する日本の玩具会社 株式会社ボーネルンド様の直営施設で、約1,900㎡の敷地面積があり、赤ちゃんから小学生まで発達段階に合わせて多様な遊びを楽しめます。
もう1つの「F PLAY FIELD」は野球場の形を模したミニフィールドで、ボール遊びなど誰でも自由に遊べます。周辺にはさまざまな遊具が配置され、子どもも楽しめるエリアです。小林氏曰く、こうした子どもの遊び場を「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」の中心部に配置することで、「子どもを中核に据えた新球場づくり」を意識しているそうです。
03認定こども園
エリア内には、企業主導型保育所を運営する株式会社キッズラボ様との連携で、幼保連携型認定こども園も開園予定です。子どもたちがとことん遊び、全身を使って空間を体験できるよう、工夫を凝らした設計デザインの園舎ができる予定です。小林氏は、「地域の子どもたちが通い、ボールパークの中を散策できる雰囲気をつくっていきたい」と話します。
04レジデンス/シニアレジデンス
さらに、エリア内には住居としてレジデンスとシニアレジデンスもできる予定です。レジデンスは14階建ての118戸で、すでに完売。シニアレジデンスは290室あり、少子高齢化の中で高齢者にもボールパークを楽しめる取り組みとして立ち上げたそうです。エリア内にはメディカルモールもできる予定で、家族で集まって野球を楽しめるだけでなく、安心して暮らせる地域づくりが進んでいます。
取り組み04 企業イベントの誘致による来訪者促進
株式会社JTBも本プロジェクトに参画し、ボールパークを軸とした交流人口の拡大と地域への波及効果を最大化すべく取り組みを進めています。例えば、ならではの観戦プランの提供による企業のインセンティブツアーでの活用や、非試合日においてもユニークべニューとして企業イベントに活用いただくことを検討しています。
またスタジアムツアーと講義を組み合わせた企業向けの研修プログラムの開発も検討しており、球団が考える地域活性化や元プロ野球選手の講話など、社員研修として活用いただけるプログラムも検討しています。
また、ボールパークを訪れた人々が地域経済に還元をさせる仕組みづくりとして、デジタルツールを活用した観光マーケティングプラットフォームの構築や、ふるさと納税返礼品としてボールパーク観戦ツアーの実施や観戦ツアーパッケージと連動したカーボンオフセットなども検討しております。
まとめ
今回は、セミナーのダイジェストとして「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」のさまざまな企業との共創による取り組みを中心にご紹介しました。ご紹介した通り、ボールパーク内ではさまざまな企業と連携して価値提供をすることで地域の活性化、経済の循環を目指しています。試合がない日に関しても、事業者へ場所を貸したり、事業者と共同でイベントを開催するなど四季を通してエリアを有効活用していく予定とのことです。また、ボールパーク内で経済的な循環を完結させるのではなく、地域に対してもさまざまな取り組みで経済的価値を波及させていくことを意識しているそうです。
セミナー実施後のアンケートでは、「地域にもたらす効果」や「企業との共創」の話が参考になったとの回答が多数ありました。産官学の共創は今後、社会課題・地域課題・企業課題を解決するキーポイントだと言えます。皆さまの地域でもスポーツの力や各地域で進むスタジアム・アリーナ改革を基軸とした地域や教育機関、他企業との共創を模索してみてはいかがでしょうか。
本記事でご紹介したような産官学連携のプロジェクトにご関心のある方は、こちらの資料も合わせてご覧ください。
関連情報
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