大学事務は業務範囲が幅広く、さらにコロナ禍を経て新たな業務にも対応が求められています。このような状況のなかで業務負担の増加を課題に感じているなら、アウトソーシングが有効な選択肢となります。
本記事ではアウトソーシングの概要や種類、アウトソーシングできる大学事務業務の例、アウトソーシングのメリット・注意点を紹介します。
INDEX
アウトソーシングとは
アウトソーシングは、「アウト(外部)」と「ソーシング(資源利用)」を組み合わせた和製英語です。組織内で行われている業務の一部を外部に委託することを指します。従来は単純な事務作業などの定型業務が主な委託対象でしたが、近年ではIT分野や人事分野など、高度なスキルが求められる業務のアウトソーシングも増えてきました。
外部の委託先に業務を任せることで、人材が不足していても業務を遂行でき、自組織にはない専門スキルを持つ人材を活用できるため競争力向上にもつながります。
人材派遣との違い
アウトソーシングも人材派遣も外部の人材を活用する手段ですが、管理や成果の責任を負う主体に違いがあります。
アウトソーシングでは、業務の管理や成果の責任も委託先が負います。一方、人材派遣では派遣された人材が委託先の指揮命令の下で業務を行い、成果の責任も派遣先企業が負います。
また、アウトソーシングでは成果物に対して対価が発生し、人材派遣では労働時間に対して対価が発生することが一般的です。
アウトソーシングの種類
アウトソーシングには、BPO、ITO、KPOの3種類があります。以下、それぞれの特徴を紹介します。
BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)
BPOは、人事や総務、経理などのバックオフィス業務を、外部の専門業者に一括して委託する形態です。これらのバックオフィス業務には、専門の知識やスキルが必要になることもありますが、専門性を持つ外部企業の活用により業務効率化と同時に品質向上も目指せます。
また、給与計算や採用活動などの業務を専門業者に任せることで、コア業務に集中できるようになります。
ITO(ITアウトソーシング)
ITOは、情報技術や情報システムに関連する業務を外部に委託する形態です。例えば、システムの運用や管理、セキュリティ対策、アプリケーション開発などが対象となります。
昨今、IT人材の不足に悩まされる教育機関は珍しくありません。アウトソーシングを活用することで、自社で育成するよりも効率的にインフラ設計やシステム運用に着手できます。また、自組織にはノウハウがない最新の技術を取り入れられる可能性もあります。
KPO(ナレッジ・プロセス・アウトソーシング)
KPOは、情報分析や医療開発、航空機設計、株式調査など、専門性が高い知的生産活動を外部に委託する形態です。
これらの業務では、高度な分析力や創造性など、高い専門性が必要とされます。自組織で採用や育成をするには金銭的・時間的なコストがかかりますが、外部業者を活用すれば効率的に専門的な知見を活用することができます。
大学事務のアウトソーシングが求められる背景
近年、大学事務のアウトソーシングが注目を集めています。その背景には、コロナ禍をきっかけとした業務量の増加があります。
東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策研究センターが実施した「第2回全国大学職員調査」によると、コロナ禍を契機に「業務の量が増えた」と感じている職員は、「とてもあてはまる」と「あてはまる」を合わせて6割を超えています。
一方で、「業務効率化が進んだ」については、「あまりあてはまらない」「あてはまらない」と答えた職員が同じく6割以上を占め、業務量が増えたのに効率化が進んでいないという結果となりました。
アウトソーシングできる大学事務の業務内容
大学事務のなかで、アウトソーシングが可能な主な業務を紹介します。
旅費精算業務
大学職員や教員の出張に伴う旅費の計算、交通機関や宿泊施設の手配までを含む旅費計算業務は、アウトソーシングが可能です。旅費計算業務には煩雑な作業が多いため、アウトソーシングによる効率化のメリットを受けやすいといえます。
入試関連業務
出願書類の受付や整理、試験会場の手配・設営など、入試に関連する一連の作業もアウトソーシングの対象です。単純な作業を委託することで、大学職員は本来の入試運営に注力しやすくなります。
学生対応・留学関連業務
奨学金に関する事務処理、留学に関する相談対応など、多岐にわたる学生対応・留学関連業務もアウトソーシングが可能です。アウトソーシングを活用することで対応スピードが上がり、よりきめ細かいサービスを提供できます。
学務関連業務
履修登録のサポートや成績通知など、学務に関する業務もアウトソーシングできます。学生への対応が迅速になり、窓口での待ち時間の短縮も期待できます。
広報関連業務
オープンキャンパスの企画・開催、入学希望者への資料請求対応などの広報業務も外部への委託が可能です。広報には専門スキルが求められますが、アウトソーシングの活用によってより効果的なプロモーションを打つことができます。
情報システム業務
大学における情報システム業務は、学生情報管理システムの運用・保守や教育用ソフトウェアの導入・サポート、さらにハードウェアやソフトウェアのトラブル対応など広い範囲におよびます。専門性が高い情報システム業務をアウトソーシングすれば、効率的な運用が可能です。
大学事務をアウトソーシングするメリット
大学事務のアウトソーシングにより、職員の負担軽減や業務全体の効率化が期待できます。以下で、具体的なメリットを紹介します。
01コア業務に集中できる
大学の運営においては、多くの定型的な事務作業が発生します。職員でなくても行える定型的な業務をアウトソーシングすれば、職員や教員は戦略の構築や研究などのコア業務に集中できます。結果として業務効率が向上し、大学全体の運営がスムーズになります。
02高品質なノウハウを活用できる
外部の専門業者には、経験に基づく高い専門性や知識があります。このようなノウハウを持つ人材に業務を委託することで、より質の高い学生サポートが提供可能です。
また、職員が不慣れな業務に時間を費やす必要がなくなり、大学全体の運営がスムーズになるメリットもあります。
03人件費や採用費のコスト削減
アウトソーシングには一定の費用がかかるものの、多くの場合は内部で対応するよりもコスト効率が良くなります。臨時職員や専門スタッフを雇用するには人件費や採用費がかかり、教育に時間がかかる場合もあります。外部委託は費用対効果が高く、業務量に応じた柔軟なリソース調整も可能です。
大学事務をアウトソーシングするデメリット・注意点
大学事務のアウトソーシングには注意したいポイントも存在します。以下で、デメリットや注意点を紹介します。
01内部にノウハウが溜まりにくい
アウトソーシングにより大学職員の負担は軽減されますが、すべてを任せきりにしてしまうと業務に必要なノウハウが内部に蓄積されなくなります。特に長期的に発生する業務については、内部にノウハウを蓄積できるよう対策しておくことが重要です。
02機密情報の管理が必要
大学事務では、学生や教職員の個人情報をはじめとする機密情報を多数扱います。そのため、アウトソーシングを行う際は、情報漏洩やデータの不正使用を防ぐための適切な管理が必要です。
個人情報保護やセキュリティには細心の注意を払い、信頼性の高い委託先を選ぶといった対策が求められます。
03アウトソーシング先の動向を把握できない可能性
アウトソーシング先からの報告頻度が低いと、業務の実態を把握しにくくなることがあります。トラブルが発生した際の対応が遅れる可能性があり、大学全体の運営に支障をきたすリスクもあります。
このような事態を避けるため、アウトソーシング先とのコミュニケーション方法や報告頻度を事前に取り決めておくことが重要です。
大学運営にあたってのアウトソーシングの選択肢(事例)
大学運営におけるアウトソーシングの具体的な事例を紹介します。
CASE01旅費の支払い関連のアウトソーシング
出張業務全般
大学では出張が高頻度で発生し、年間5,000回を超えるケースもあります。旅費の計算や交通手段・宿泊先の手配など、出張にかかわる業務をアウトソーシングすることで業務効率化や経費削減が期待できます。
CASE02キャンパス施設の管理運営のアウトソーシング
スポーツ施設の管理運営
スポーツ施設の管理・運営のうち、例えばプールの運営には衛生面の管理も必要となるため、専門的な知識が必要です。アウトソーシングを活用すれば、学生がより安心して利用できる環境を整えられます。
CASE03学生対応・留学関連業務
奨学金業務
奨学金関連の業務には、学生や保護者への窓口対応、説明会の実施なども含まれます。これらを委託すれば、職員は奨学金制度の設計や再検討などの戦略的な業務に集中できます。
留学関連業務
留学に関連する業務のうち、査証の取得や出願手続きといった業務は外部に委託可能です。留学関連の業務がスムーズに遂行できれば、大学のグローバル化を後押しできます。
CASE04そのほかさまざまなアウトソーシングの選択肢(一例)
入学試験関連業務
- 願書受付
- 入試会場の手配・会場誘導
- 試験監督
- 海外入試事務局業務など
学務・教務関連業務
- 学会・教員会議の運営
- 履修登録の補助
- 成績表の作成
- 卒業論文の管理など
人事・経理・総務・情報システム関連業務
- 職員の採用・教育研修
- 経理・財務関連の補助業務
- 給与支払
- ITインフラの導入・運用
留学・国際交流関連業務
- 外国人留学生の入国サポートや就職支援
- 留学希望者向けオリエンテーションの運営
- 海外の大学との連絡窓口など
広報業務
- オープンキャンパスの企画・運営
- DMの発送
- ホームページやパンフレットの制作・更新など
就職支援関連業務
- 就職活動オリエンテーションの実施
- 模擬面接の実施
- 学生向けの就職活動相談窓口業務など
まとめ
コロナ禍における業務量の増加を背景に、大学運営においてもアウトソーシングが普及してきています。単純な事務作業や費用の精算といった定型業務だけでなく、情報システム関連業務をはじめとした専門性の高い業務においても、アウトソーシングの活用で効率的な大学運営が可能です。
一方で、アウトソーシングを検討する際は個人情報などの機密情報の取り扱いに注意し、内部へノウハウが蓄積するような仕組みを検討することが重要です。
大学事務のアウトソーシング事例についてより詳しく知りたい方は、以下の資料を是非ご覧ください。