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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 ChatGPTで始める教員の働き方改革 ~忙しい先生のための生成AI活用術~

2024.12.09
学校運営・総合
業務効率化支援

教員の働き方改革は、長時間労働の改善に向けた進展が一部で見られるものの、依然として多くの課題が残されています。特に、時間外勤務の削減が進む一方で、学校業務の効率化や負担軽減の取り組みが十分でない現状が指摘されています。その背景として、日本の教員が担う業務が海外の教員に比べて多岐に渡っている点を指摘する声もあります。

こうした状況の下、2022年に登場した生成AIサービス「ChatGPT」は世界中で急速に普及し、多くの企業で業務効率化やコスト削減、イノベーション創出に役立てられています。最近では教育現場でもその可能性が大いに注目されています。

そこで今回の記事では、ChatGPTを活用して教員の業務を効率化し、子どもたちの学びの質を向上させるための具体的なヒントや活用例をご紹介します。

ChatGPTは教員の働き方改革の救世主になるか?

ChatGPTは、OpenAI社が開発した文章生成AIサービスです。自然言語処理を活用した高い対話能力が特徴で、自然な会話のように質問を理解し、即座に回答することができます。そのため、人間の「知的パートナー」として、多岐にわたる分野での活用が期待されています。無料版と有料版があり、アカウント登録だけで手軽に利用できる点から、世界中で利用者が急増しています。

企業や官公庁、自治体でもChatGPTをはじめとした生成AIの導入は加速しており、文書作成、翻訳、情報分析、顧客対応、商品企画などに幅広く活用されています。昨年12月には、三菱UFJ銀行が、生成AIの導入により月22万時間もの労働時間削減が可能との試算を発表するなど、生成AIの活用による大幅な業務効率化やコスト削減、サービス品質の向上が期待されています。

こうした働き方改革を可能にするChatGPTなどの生成AIを、学校現場で活用することで子どもたちの学びの質を保ちながら校務の効率化や教員の労働時間短縮を実現することは可能なのでしょうか。

本記事では、教員によるChatGPTの活用事例についてご紹介します(生徒による活用は含まれておりません)。

文部科学省が生成AI教育利用ガイドラインを公表

ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な普及について、文部科学省はどのように考えているのでしょうか?文部科学省は2023年7月、学校関係者が生成AIの活用可否を判断する参考資料として、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表していましたが、生成AIに関する技術の進展などを踏まえ、24年12月にその改定版となる「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver. 2.0)」を公表しました。

ガイドラインVer.2.0では、教職員による校務での利活用の基本的な考え方として、「授業準備や各種文書のたたき台作成を含む校務において利活用することで、校務の効率化や質の向上等、教職員の働き方改革につなげていくことが期待される」、「教職員自身が生成 AI の利活用を通じて新たな技術に慣れ親しみ、利便性や懸念点、賢い付き合い方を知っておくことは、児童生徒の学びをより高度化する観点からも重要である」として、従来の「準備が整った学校での実証研究を推進」するという考え方から一歩踏み込んで、「生成 AI の仕組みや特徴を理解した上で、生成された内容の適切性を判断できる範囲内で利用するという前提で、校務において生成 AI を積極的に利活用することは有用であると考えられる」と明記しています。

教育現場におけるChatGPTの具体的な活用例

生成AIの機能や特徴、正しい付き合い方を理解した上で学校現場でも活用していくことが、これからの教育活動には欠かせないと言えそうです。では、実際にChatGPTは学校現場のどのような場面で活用することができるのでしょうか?その一例をプロンプトの例とともにご紹介します。

  1. 授業準備の効率化支援
  2. 文書作成に関する支援
  3. 部活動や学校行事に関する支援
  4. カリキュラム作成支援
  5. 評価に関する支援

プロンプトとは?

プロンプトとはChatGPTに対する質問、指示、命令のことです。分かりやすく具体的なプロンプトを使うことで、目的や意図に沿った回答を得ることができます。

プロンプト作成のコツ

  1. 役割を明確にする
    例)私は中学校の数学の教師です
  2. 目的を明確にする
    例)対話形式を取り入れた授業のアイデアを探しています
  3. 回答形式を指定する
    例)回答はテーブル(テキスト、リスト)形式にしてください
  4. 具体的な情報を提供する
    例)対象は中学3年生です、授業1コマは50分です

01授業準備の効率化支援

  • 学習指導案の作成支援
  • 練習問題、授業資料、プリントのたたき台作成
  • 教材研究やChatGPTを相手にした模擬授業の実施

時間のかかる授業準備もChatGPTの力を借りることで大幅に時間を短縮することができます。例えば単元名、単元目標、本時のねらいなどを入力し「授業の展開案を作成して」と指示するとChatGPTは即座に授業案を提案してくれます。また、授業で使用する練習問題やプリントの叩き台の作成、それらを使った模擬授業の壁打ち相手にもなってくれます。ChatGPTの回答を鵜呑みにすることなく、教員の目で生徒の実態に合わせたアレンジや調整を行う必要がありますが、ゼロから組み立てるよりも効率的な準備を進められるだけでなく、そこから新たな授業のアイデアが見つかることも少なくありません。

例)私は中学校の数学の教師です。2年生の単元「連立方程式」の「連立方程式とその解」に関する50分授業の展開案を考えてください。展開案には生徒のグループ活動を含めてください。

例)中学2年生の数学「連立方程式とその解」に関する練習問題を3問作成してください。難易度は標準レベルで、テーマは学校生活、買い物、スポーツにしてください。

例)これから中学2年生の数学「連立方程式とその解」に関する模擬授業を行います。ChatGPTは生徒役として答えてください。分からないときや質問があればそれも教えてください。

02文書作成に関する支援

  • 学級便りや学年通信などの保護者向け文書
  • 学級掲示文書、各種報告書、会議資料、議事録
  • 部活動や学校行事に関する文書

ChatGPTは、校務に必要なさまざまな文書作成において、教員にとって心強いパートナーとなります。文書の構成案やテンプレートの作成、作成済み文章の推敲、さらには外国籍保護者向けの翻訳などは、生成AIが得意とする分野です。ただし、ChatGPTが作成した文章はそのまま使用せず、必ず教員自身の目で内容を確認・修正してください。ChatGPTを上手に活用することで、質の高い文書を効率よく作成でき、空いた時間を子どもたちと向き合う時間や他の業務に充てることができるようになります。

例)私は中学3年の担任です。1学期の終業式で配布する保護者向け学級通信の構成を考えて下さい。夏休みの過ごし方として、規則正しい生活習慣と高校受験に向けて計画的に学習を進めることの2点を含めてください。

例)学級通信の文章を英語と中国語に翻訳してください。

例)「保護者面談のお知らせ」書面のひな形を作成してください。

03部活動や学校行事に関する支援

  • 部活動の練習メニューの作成
  • 体育祭の競技種⽬案作成や業務の割り振り
  • 文化祭や修学旅行の準備スケジュールの作成支援

部活動は生徒の体力や技能の向上や人間形成の機会であるとともに、豊かな学校生活を実現するために欠かせない活動ですが、その指導や付随する業務にかかる教員の負担は決して少なくありません。例えば、競技経験がない部活動の顧問に任命された場合、練習メニューを考えるだけでも大変な作業になります。また、体育祭、文化祭、修学旅行などの学校行事は、スケジュール作成や進行管理、学外との調整など業務が多岐に渡り、それを負担に感じる教員も多いようです。こうした場面でChatGPTは教員の良き相談相手として、具体的なアイデアやアドバイスを提案してくれます。

例)私は中学校の男子バレーボール部の顧問です。2時間の練習メニューを考えてください。部員は10人でレベルは中級者です。次の大会に向けてサーブ力とレシーブの精度を向上させたいです。個別の練習メニューとチームでの戦術練習を組み合わせてください。

例)11月の文化祭に向けた準備スケジュールを提案してください。全体のテーマ決め、クラス展示、部活動展示、ステージ発表の内容決定、広報活動、予算管理、備品手配を生徒が中心となって行います。

04カリキュラム作成支援

  • 教科横断的なカリキュラムの作成支援
  • 年間指導計画の策定支援
  • 時間割作成支援

教科横断的なカリキュラムを組み立てるには、複数教科の単元目標などを把握した上で、総合的な指導計画を立てる必要があります。また、年間指導計画や時間割の作成では、限られた授業時数を最大限に活用し、生徒の学びを最適化する工夫が求められます。こうした場面でもChatGPTは頼れるパートナーとなります。複数教科の単元を関連づけるアイデアの提案や、年間計画のテンプレート作成、時間割の編成など、教員が抱える課題に対し柔軟な解決策を提供します。

例)私は中学校の教員です。本校では2年時に「持続可能な社会の実現」をテーマに1年間の学習活動を計画しています。理科、社会科、国語科、総合的な学習の時間を横断した学習活動を提案してください。なお2学期末に生徒による発表を行います。

05評価に関する支援

  • 評価基準(ルーブリック)の作成支援
  • 生徒のレポートや小論文などの観点別評価支援
  • 評価基準に基づいた生徒へのフィードバック支援

生徒の学びを適切に評価することは教員にとって重要な役割ですが、評価基準の作成や個別フィードバックの準備には多くの時間と労力がかかります。特にルーブリックの作成や観点別評価では公平性や明確性が求められるため、慎重な計画が必要です。ChatGPTはこれらの業務を支援し、効率化を図ることができる頼もしいツールです。具体的には、評価基準のテンプレート案や、小論文の観点別評価例、各生徒の学びを促すフィードバック案の提案など、さまざまなアイデアを提供してくれます。

例)高校2年生の総合的な探究の時間のルーブリックを作成してください。評価観点は以下の3つです:知識・技能、思考・判断・表現、主体的に学習に取り組む態度。各観点について4段階(S, A, B, C)の評価基準を作成し、表形式で回答してください。

ChatGPTを活用する際のチェック項目

これまで見てきたように、ChatGPTは教員の校務を効率化し、子どもたちの学びの質を向上させるために非常に便利なツールです。しかし、その役割はあくまで補助的なものであり、最終的な判断や決定は教員自身の責任において行われなければなりません。特に、ChatGPTの回答には誤りを含む可能性があり、時には事実と全く異なる内容や、⽂脈と無関係な内容などが出⼒されることもあるため注意が必要です。(ハルシネーション=Hallucination・幻覚)

教員が校務で生成AIを利用する際のチェック項目をまとめました。

教員が校務で生成AIを利活用する際のチェック項目

  • 教育委員会の方針(情報セキュリティに関するルール・指示等も含む)に基づき利用しているか
  • 業務端末又は教育情報セキュリティ管理者の許可を得た端末を利用しているか
  • 生成AIサービスの提供者が定める最新の利用規約を確認・遵守しているか
  • ハルシネーションやバイアス等の生成AIの特徴を理解した上で、出力結果の適切性を判断できる範囲内で利用し、出力された内容を採用するかどうかを自身で判断しているか
  • プロンプトに重要性の高い成績情報等の情報を入力していないか
    ※重要性の高い情報を扱う前提のセキュリティ対策が講じられている場合は除く
    (ただし、重要性の高い情報のうち個人情報に該当する情報については、以下「プロンプトに個人情報を入力していないか」についても留意する必要がある。)
  • プロンプトに個人情報を入力していないか
    ※教職員がプロンプトに入力した個人情報を、生成AIサービスの提供者において応答結果の出力以外の目的で取り扱わないことを確認している場合は除く
  • 著作権の侵害につながるような使い方をしていないか

(引用:初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver. 2.0))

利用の前には必ず実際のガイドラインご確認ください。

生成AI時代の教員の役割とは?

ChatGPTなどの生成AIは、蒸気機関や電気、インターネットやスマートフォンに匹敵する画期的な発明とされています。これらの技術がそうであったように、生成AIも私たちの生活に欠かせない存在になる日は近いでしょう。その革新性は、単に知識を提供するだけでなく、それを活用して具体的なアウトプットを生み出せる点にあります。生成AIは、便利な道具を超え、人間の思考や創造性を広げる「知的なパートナー」として新たな可能性を切り拓いています。

一方で、教育現場では不安の声も聞かれます。中には「教員の役割がAIに取って代わられるのではないか」と懸念する意見もあります。しかし、生成AIは教員の役割を奪うものではなく、むしろ教員本来の役割である子どもたち一人ひとりに向き合う時間を増やす手段になりうるものです。例えば、繰り返し行う単純な事務作業を生成AIに任せることで新たに生まれた時間をより良い授業を実践するために使うなど、その成果を子どもたちに還元することが可能です。同時に、教員はAI時代に求められる倫理観や人間らしさを子どもたちに教えるという重要な役割も担っているのです。

生成AIは教員を支える補助ツールであり、教員の存在価値を高めるパートナーです。これを活用することで、教育現場はより創造的で豊かな未来へと進化していくでしょう。

お断り

  • 校務においてChatGPTなどの生成AIを利用する場合は、文部科学省や学校設置者が定めるガイドライン、セキュリティポリシー、および関連法令を遵守の上、適切にご利用ください。
  • 本記事に記載されているChatGPTの機能や情報は公開時点のものであり、将来的にアップデートや改善によって変更される可能性があります。最新の情報については、OpenAIの公式ウェブサイトや発表をご確認ください。

参考資料・参考文献

  • 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」,23年7月
  • 田中博之「授業で使える!教師のためのChatGPT活用術」,学陽書房,24年2月
  • 坂本良晶「教師の仕事がAIで変わる!さる先生のChatGPTの教科書」,学陽書房,24年2月

本記事に関するお問い合わせ、ご相談、ご不明点などお気軽にお問い合わせください。

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