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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 「個人探究、ウチではこうしています」課題研究の世界大会 引率先生インタビュー

2024.09.30
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毎年7月下旬に開催される中高生のための課題研究の世界大会「Global Link Singapore(グローバルリンク・シンガポール)」。8回目となる今年は、アジアの7つの国と地域から過去最大の97チーム、414名が参加し、基礎科学・応用科学・社会科学の3分野で熱い発表や議論が繰り広げられました。

本記事では、引率者として大会に参加した4名の先生に、学校での個人探究の実践方法や指導上のポイントについてインタビューした内容をご紹介します。

Global Link Singapore 2024

会期 2024年7月26日(金)~7月28日(日)
会場 シンガポール ナンヤン工科大学
主催 一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構
企画・運営 株式会社JTB
協賛 シンガポール航空読売新聞社TSP太陽株式会社株式会社ジージーキュリー株式会社株式会社SUN Reality株式会社PLAY SPACEつくばScienceEdge 2024実行委員会株式会社クロスザボーダー
後援 在シンガポール日本国大使館・シンガポール政府観光局・国立研究開発法人科学技術振興機構・公益財団法人日本修学旅行協会

Global Link Singapore公式ホームページ

日本から出場した生徒も大活躍した今年度の大会

今年の大会には日本から32校64チーム171名※の生徒が参加し、海外6つの国と地域から参加した33チーム243名の参加者に交じって非常に優秀な成績を収めました。※見学者を含む

基礎科学分野

  • 2nd Prize 玉川学園高等部
  • Fine Work Prize 神戸大学附属中等教育学校、高知学芸高等学校

応用科学分野

  • Fine Work Prize 芝浦工業大学柏高等学校

社会科学分野

  • 2nd Prize 札幌光星高等学校
  • 3rd Prize 品川翔英高等学校
玉川学園高等部
札幌光星高等学校
品川翔英高等学校

受賞校詳細はこちら

Global Link Singapore 2024開催速報

日本とシンガポールの先生方による座談会を開催

すべての出場者のオーラルプレゼンテーションが終了した後、審査の待ち時間を利用して、日本からの出場者や大会を見学する生徒を引率してきた先生と、シンガポールの日本人学校の先生が一堂に会して座談会が開催されました。参加した先生方は、“Global Link Singapore”に出場するまでの経緯や、見学に訪れた理由、日頃の探究の取り組みなど、短い時間で様々な情報交換を行いました。

モデレーターを務めた一般社団法人 次世代教育ネットワーキング機構 中野事務局長

また、座談会参加者中から4名の先生にWEBインタビューへの協力をお願いし、学校での個人探究の取り組みや、指導体制についてお答えいただきました。

WEBインタビューにご協力いただいた先生(学校名五十音順)

佼成学園中学校・高等学校 畠篤史先生
玉川学園中学部・高等部 矢崎貴紀先生
筑紫女学園中学校・高等学校 岡田幸浩先生
千代田国際中学校 城野大輔先生

(記事中では敬称略)

――Global Link Singaporeに参加した理由を教えてください。

畠(佼成学園)  実は、私は英語でも理科でもなく、国語科の教員をしています。本校では以前から探究を行っているのですが、ここ3,4年は総合型選抜に向けて国語科的な視点から指導に関わることが増えてきていまして、それもあって今回のような機会をいただき、参加することになりました。

矢崎(玉川学園)  今回は8名の高校生が6件の発表をしています。昨年はGlobal Link Queenslandにも出場させていただいて、銅賞をいただきました。そこから、つくばScience EdgeChange Maker Awardsにも参加してきたのですが、惜しいところでこの大会へ招待参加は叶いませんでした。そこで、生徒に「(Singaporeに)行きたい人いる?」って聞いたら集まったという感じです。

岡田(筑紫女学園)  私は本校に赴任してまだ2年目でして、学校は昨年から総合的な探究の時間に大きく力を入れ始めたところです。今回の大会には中3を12名連れてきまして、うち2組が発表を行い、残りが見学という形です。発表はまずまずでしたが、英語での質疑応答にはかなり苦戦していましたね。

城野(千代田国際)  今回は、11名の中学生を連れて見学に来ています。来年は筑紫女学園さんのように中学生にも発表してもらいたいと思っています。日本だと中学生が出られるコンテストが少ないんですね。中学生って感化される度合いがすごく大きいんです。今回の生徒もすごいプレゼンをしたチームに憧れて「あのチームが決勝に行かないかなぁ」なんて話をしていました。生徒は、2日間の中で「心に残ったプレゼンBEST3」をまとめて、それを英語でプレゼンします。明日はシンガポール国立大学に行って、卒業生の方に「壁打ち」の相手になってもらおうと考えています。

(ここから先は、WEBインタビューの回答をもとに編集部で編集した内容となります)

――生徒が探究のテーマをどのように決めているか教えてください。

畠(佼成学園)

本校では、高校1年次に探究について一通りの解説を行い、生徒が実践を経験したあとに自分の探究テーマを決定するという流れです。2年次以降は学年の教員がサポートする中で、生徒が各自のテーマを掘り下げて探究サイクルを回し、結果を論文にまとめるようにしています。

矢崎(玉川学園)

本校の中学校では、「教科発展型」各教科担当の教員が研究室を設けています。高校では、大学の学問領域に基づいて進路を意識した「課題研究型」で、各教員が得意とする分野の研究室を設ける形式を取っています。中学高校ともに生徒一人ひとりが自らテーマを設定しています。

岡田(筑紫女学園)

中1では、担任主導で世界遺産をテーマにグループ探究を行い、その後、学年主導のゼミ形式に移行していきます。中2以降は学年主導のゼミ形式となり、アウトプットとして「中1中2合同ポスター」を制作。中3では、アジアまたは医療・科学をテーマに取り上げます。高1では、全員で外部企業が提供するアントレプレナーシッププログラムに取り組み、高2では再び学年主導でゼミ形式、という具合に進んでいきます。

城野(千代田国際)

本校では、大きく7分野に分けて講座を設定し、生徒は興味関心のある講座に所属してその中でテーマを設定しています。必要に応じて、参考となるテーマの選択肢を与えています。

――個人探究の指導にはどのような体制であたっていますか?

城野(千代田国際)

本校では1つの講座に約20名の生徒が所属し、それを一人のHR担任教員が担当しています。各講座の専門性については外部講師に入ってもらってサポートする体制を取っているため、各講座を担当する担任教員は主に汎用的スキルの指導や生徒のモチベーション管理などを行うようにしています。

岡田(筑紫女学園)

ゼミ形式で、学年の教員が分担で指導にあたり、それ以外は担任と副担任が指導にあたっています。生徒が設定した多様なテーマに応じたサポートを行うためには、各教科の教員の専門性が必要だと考え、今年度からこのようなスタイルを開始したところです。

畠(佼成学園)

本校では、学年の教員が15~25名くらいの生徒を担当して指導するゼミ方式をとっています。探究の指導において大切なことは、専門知識や指導よりも生徒の伴走者となることだと考えていますので、生徒と教員の関係性を重視してゼミ単位にしています。

矢崎(玉川学園)

本校では、生徒一人一テーマで研究を行っていて、平均して一人の教員が20名程度の生徒を担当しています。中学校では毎週木曜日の6~7時間目、高校では毎週金曜日の7~8時間目が全校生徒での探究の時間となっており、各研究室に3学年の生徒がそれぞれ所属しているため、教員だけでなく先輩が後輩を指導できる体制となっています。本校は今年で95周年になりますが、創立当初から探究をやっていまして、夏休みによく聞く「自由研究」という言葉を作ったのも本校です。そこから長い年月をかけてこの形に落ち着きました。実は、教員採用の時点で「自由研究」という科目の指導が全教員に割り当てられることを条件としています。

――個人探究の指導において課題と感じることは何ですか?またそれをどのように克服していますか?

岡田(筑紫女学園)

教科、部活、クラスの指導があるなかで、教員が探究の指導に十分な時間を割きづらい点が課題です。真剣にやろうとすると時間がいくらあっても足りません。そこで、探究の旗振り役となる教員を学年に一人以上置いて、学年会議の時に指導方針や進捗を確認したり、指導例を共有したりするようにしています。旗振り役の教員に届いた教員や生徒からの質問を学年で共有することで、指導に関する悩みは減ったと感じています。

矢崎(玉川学園)

分野を横断するような探究テーマを設定している生徒は、自分がどの研究室に所属するか悩ましいところがあります。そこで、高校1年生の4~5月の2か月間は生徒が自由に研究室をめぐり、自身と相性が良さそうな研究室を決める期間に充てています。こうすることで生徒と研究室のマッチングが上手くできるため、ほとんどの生徒が3年間同じ研究室に所属して、研究に没頭できるようになっています。

畠(佼成学園)

探究の内容によって高度な研究環境や専門家の助言、あるいは経済的な支援を必要とする場合に、諦めざるを得ないケースがあるのが悩ましいところです。そこで本校では、外部講師の招へいや、専門機関との連携、学内での予算拡充などに取り組んできました。そうした取り組みの結果、外部とのつながりがさらにその外側とのつながりを生み出し、学外のネットワーク構築にも貢献しました。

 

城野(千代田国際)

課題はクオリティの精査ですね。生徒それぞれの目標設定にあわせて、指導の濃淡をつけることが難しいと感じています。そうしたこともあって、本校ではGoogle Classroomを活用して、生徒が外部講師から直接個別にフィードバックを受けられるようにしました。これによって、教員の専門性に関わらず指導ができることに加え、教員自身も生徒の探究活動に一緒に参加することで、楽しく学ぶことのできる機会が増えました。

――個人探究は生徒の資質・能力の育成やキャリア形成にとってどのような意味があると思いますか?

矢崎(玉川学園)

自己効力感が向上し、主体性が身につくので、卒業後にも大学や社会に出て活躍できるようになると考えています。

岡田(筑紫女学園)

教科横断的な学びや情報収集を経て、生徒と多様な業界、人、考え方との出会いがあることです。ほかにも仕事の疑似体験ができたり、大学入試の総合型選抜の対策にもつながっていくと思います。

城野(千代田国際)

自分の人生にオーナーシップを持つことですね。他人のせいにしたり、不平不満を言ったりするのではなく、周りの力を借りて前に進む力が身につくと考えています。

畠(佼成学園)

教員(大人)の側が期待している効果を必ずしも得られるわけではありませんが、ときとして自分も思いもよらないような特性を発揮する生徒が複数人現れるだけでも大きな意味があると思います。

――個人探究の指導やサポートにお困りの学校に、メッセージをお願いします。

城野(千代田国際)

探究は教科学習と切り離されたものではありません。基礎知識やスキルの育成と、探究していくことは両輪であり、私たちの人生そのものだと思います。その意味で、探究活動は新しい代物ではなく、私たちが生まれてからずっと行ってきた「学ぶ」という行為そのものです。 まずは自身の教科の専門性と、それが他とどう繋がっているかを考えることを大切にするとよいかと思います。

畠(佼成学園)

どこの学校にも、探究に対して前向きな先生と後ろ向きな先生がいると思います。私は生徒とともに新しいことを学べる「探究」というものに楽しんで取り組んでいます。消極的な先生の協力を無理に求めるよりも、まずは積極的な先生を中心に活動するほうが楽しいのではないでしょうか。

岡田(筑紫女学園)

総合型選抜による生徒募集は拡大しており、総合探究に取り組むことで、生徒(や教員)の学習意欲に火をつけたり、学問同士が繋がっていることを実感できると思います。 本校の個人探究は今年度から本格的にスタートしたばかりですので、ぜひ他校さんの事例も参考にさせていただきたいです。

矢崎(玉川学園)

本校の探究学習のカリキュラムや指導方法等はうまくいっている部分が多いので、ぜひ見学等に来ていただければと思います。毎年、5~10校ほどの視察依頼がありますので、ご依頼いただければ日程調整してご案内いたします。


まとめ

生徒が自ら探究テーマを設定する個人探究では、指導する教員の体制や負担などの課題を抱えている学校も少なくないようですが、今回インタビューに協力いただいた学校では、創意工夫を凝らしてそうした課題の克服にあたっていることが分かりました。

例えば、教員の得意分野に応じたゼミ方式の導入や教員相互間での情報共有、ICTツールを活用した外部講師との連携や、先輩後輩とのつながりの活用などは、これから本格的に個人探究に取り組む学校にも参考になるのではないでしょうか。

また、個人探究が進む学校では、教員の役割にも一部変化がみられました。専門知識は外部有識者の力を借りながら、教員は生徒の伴走者として探究のモチベーション管理に専念したり、教員自身も生徒と一緒に学ぶ、という役割へシフトが進みつつあるようです。

個人探究は、総合的な探究の時間が掲げる「生徒一人ひとりが自分の生き方在り方を考えながら自ら課題を発見し、それを解決していく能力を育む」という目標を具現化するものです。急激な変化が続くこれからの社会では、主体性を発揮しながら新たな価値を創造しつづける人材の育成が求められていることから考えても、全国の学校で取り組みがさらに加速していくことでしょう。

今回の記事が今後の探究活動実践の参考になれば幸いです。

インタビューに協力いただいた先生方、ありがとうございました。


関連情報

最後に、個人探究に取り組む中高生にお勧めのオンラインイベント“Global Link Academy”をご紹介します。 Global Link Academyとは、Global Linkに出場する中高生のために開発された課題研究発表の事前トレーニングプログラムですが、2024年度から一般の中高生もお申込みいただけるようになりました。全5回のプログラムでは、アブストラクト(研究要旨)の書き方や、英語による質疑応答への対策などを具体的に指導します。詳しくは、お役立ち資料“Global Link Academy ”をご覧いただき、探究のスキルアップを目指す生徒や英語での研究発表に挑戦する生徒にぜひご紹介ください。

開催時期・方法・回数
毎年6~7月・オンライン開催・全5回(1回120分)

2025年度開催情報は2025年2月頃発表予定

本記事に関するお問い合わせ、ご相談、ご不明点などお気軽にお問い合わせください。

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