今、子どもたちの学びの幅を広げるアプローチの一つとして、楽しみながら学ぶ体験を通して知識を身につけていく「エデュテイメント」が注目を集めています。
㈱JTBは、エデュテイメントの第一人者の正頭英和先生とともに親子向け体験型教材「OYACONET-QUEST(おやこねっと くえすと)」を開発。いつもの日常の中で、子どもたちにさまざまな体験を提供する本教材は、エデュテイメントの要素も取り入れています。
今回は、子どもたちの心を動かすアプローチを得意とする正頭先生にお話を伺いました。JTB企画開発プロデュースセンターの高岡裕之が聞き手となり、子どもたちの「好き」を引き出すポイントや教育現場でできることについて深掘りします。
プロフィール
1983年大阪府生まれ。関西外国語大学外国語学部卒業。関西大学大学院修了(外国語教育学修士)。2019年に世界約150ヵ国・約3万人の中から、教育界のノーベル賞「グローバル・ティーチャー賞」トップ10に選出された。「桃鉄 教育版」のエデュテイメントプロデューサーを務めるなど、さまざまな企業と協働で教育コンテンツを開発している。
長年教育旅行の営業職を務め、営業支援や教育プログラム開発にも携わる。2021年のJTBグループ新規事業公募制度によりOYACONET事業を提案し採択。事業推進責任者として今に至る。プライベートでは3児の父。自身の子育て経験も事業提案のきっかけとなっている。
INDEX
AIの進歩によって、“役立つこと”を学ぶ時代は終わった
- 高岡
- 正頭先生が開発に携わられたすごろくゲーム「桃鉄 教育版」は、約7000校で導入されているそうですね。すごい反響です。他にもさまざまな企業と協働で教育コンテンツの開発をされていますが、授業やゲームにエデュテイメントの要素を入れていく背景にはどのような考えがあるのでしょうか?
エデュテイメント:教育(education:エデュケーション)と娯楽(entertainment:エンターテイメント)を組み合わせた造語。「楽しみながら学ぶ体験」を通して、知識を身につけていくこと。
- 正頭
- 一言で言うと、今はモチベーションがすべての時代だと思っています。その理由は、AIの進歩によって人々の能力が均一化されるようになったからです。
例えば、高岡さんよりも私の方が英語が上手くしゃべれるとします。ここに英語ネイティブの人がいた場合、どちらの方がコミュニケーションに困らないと思いますか?実は、どちらも困らないんですよ。なぜかというと、AIで通訳ができてしまうからなんです。これまでは、AIだと微妙なニュアンスは伝えられないと言われていましたが、2028年には完全に言語の障壁がなくなるとも言われています。つまり、私が何千時間もかけて培ってきた能力に、今はスマホ1つで追いついてしまう時代です。
- 他にもさまざまな能力がAIによって補えるようになりました。人間にしかできないと言われていたクリエイティブな仕事も、ChatGPTの誕生によって覆りましたよね。むしろそちらの仕事から奪われている。私たちが予測していた世界とは、真逆の未来が待っていたんです。
その中で突き抜けていくには、その子自身が「好き」「面白い」と感じたり、情熱を持って取り組めたりすることではないかと思います。AIを使うことで誰でも英語でコミュニケーションが取れる今、「僕は英語が好きだから学んでいるんだ」と言える人が尖っていくんです。
将来の役に立てるために何かを学ぶ時代はもう終わりました。これからは、どんな未来が来たとしても楽しめる子どもを育てていくことの方が大切ではないかなと。私たち大人がやるべきなのは、子どもたちの好きを広げていくことです。そのためのアプローチの一つとして私がやっているのが、授業やゲームにエデュテイメントの要素を入れていくことなんです。
「面白そう!」の入り口をつくり、やってみるハードルを下げる
- 高岡
- 時代の変化に目を向けると、将来役立つことを学ぶという発想よりも、自分が好きだと思うことを学ぶ方が子ども自身の幸せにつながっていきそうですね。好きなことはたくさんあった方が良いのでしょうか?
- 正頭
- 一つのことだけに関心を持って突き抜けることはもちろん素晴らしいですが、それが何らかの理由で制限される可能性はゼロではありません。やはり好きなことはたくさんあった方がいい。そのためにも、“体験の多様性”を広げていくことが重要なんです。ただ、それが難しい時代にもなっていると思います。
- 高岡
- さまざまなことを体験する機会は、昔よりも増えているように思います。どこに難しさがあるのでしょうか?
- 正頭
- 確かに今の子どもたちの目の前には、楽しいことや面白いことが溢れています。けれど、事前に楽しいとわかっていることでないとやらない傾向が強まっているので、新たな体験をするハードルは上がっていると思います。それは、子どもたちに限ったことではありません。
例えば、大ヒットした映画『鬼滅の刃』は、原作の漫画を通して多くの人が結末を知っていました。それでもみんな映画を観に行くんです。もはや口コミの力も弱くなっていて、自分が絶対に面白いと確信しているものにしか動かなくなっている。
なので、まずはやってみるハードルを下げることが重要なんです。とにかく「楽しい」「面白い」と思える入り口をつくる。多くの学問はやり始めたら面白いものばかりなので、そのハードルを下げるアプローチは今の教育に必要なことだと思います。
年齢が低いうちから、“体験の多様性”を広げるアプローチを
- 高岡
- 確かに、とりあえずやってみようと思うハードルは高くなっている感じがしますね。今回、正頭先生とJTBで共同開発した新サービス「OYACONET-QUEST(おやこねっと くえすと)」は、まさにエデュテイメントの要素を含めた教材なので、体験のハードルが低いことも特徴の一つだと思います。
「おさるのジョージ」は、アメリカの絵本作家レイ夫妻によって1941年に刊行された絵本「Curious George」に登場するキャラクターとして生み出されました。日本ではその絵本が「ひとまねこざる」シリーズとして1954年に出版されて以来、多くの人々に愛されてきました。2021年には80周年を迎え、キャラクター商品の展開を中心に子供から大人までの幅広いターゲットに対してさらに人気が拡大しています。今回、OYACONET-QUESTでは、好奇心旺盛なジョージのようにお子様が何事にもチャレンジし、それを黄色い帽子のおじさんのように保護者がそっと見守りながら一緒に楽しんでいただきたい、という思いで「おさるのジョージ」スペシャルエディションをご用意しました。 おさるのジョージオフィシャルサイト:https://osarunogeorge.jp/ © Universal City Studios LLC. All Rights Reserved. Curious George and related characters, created by Margret and H. A. Rey, are copyrighted and registered by HarperCollins Publishers L.L.C. and used under license. All rights reserved.
- 高岡
- 「OYACONET-QUEST」は小学生を対象とした教材ですが、体験の多様性を広げていくのに適した年齢はあるのでしょうか?
- 正頭
- 小学校4年生くらいまでは自分の好きなことがまだはっきりしない段階でもあると思うので、いろんな体験ができる機会を用意してあげた方がいいように思います。あれこれやってみる中で、「これが好き」「もっと深めていきたい」という気持ちが出てくるものです。
興味関心があることは、すべて過去の体験に紐づいているんですよね。何も体験していないところから「これをやってみたい!」と思うことは基本的になくて、「昔やって楽しかったから」「昔やって悔しかったから」など、何らかの体験があるはずです。 さらに、年齢が低いほど新しいことをやってみるハードルは低いので、そういう意味でも小学生のうちは体験の多様性を広げるには適した年齢ではないかと思います。「OYACONET-QUEST」はそれが気軽にできる教材でもありますよね。
「やりたいことがない」子どもに対して、できることは?
- 高岡
- 中学生や高校生の段階でも、やりたいことがない生徒は多いのではないかと思います。そういった場合には、何か手はあるのでしょうか?
- 正頭
- そういう子がいた場合、私だったら「何か人の役に立つことをしてみよう」と提案します。直接人のためになることをしてもいいですし、環境にいいことをしてもいい。人の役に立つことをすると何かしらのフィードバックが得られます。それがきっかけで、スイッチが入る生徒もいますよ。
もしくは、ビジネスに関わることをやってみるのもいいと思います。現時点ではやりたいことがなかったとしても、将来的にやりたいことと出会うかもしれません。そのときにぶつかる壁は、「お金の壁」「知識の壁」「法律の壁」の3つしかないんですよ。これ以外のことでやりたいことが阻害されることはほとんどない。
例えば、3Dプリンターで家を作りたいという子がいたのですが、日本の法律ではそれが許されません。それは仕方がないにしても、お金と知識については自分が勉強することでクリアできます。特に今の学校教育の中で身につけることが難しいのが、お金に関する知識だと思います。
やりたいことがあったときに、200万円のお金が必要だとします。お金の知識がないと、諦めるかコツコツ働いて稼ぐかのどちらかになりますが、クラウドファンディングで資金調達をしたり、銀行に借りたりする手段もあります。コツコツ働くことも悪いことではありませんが、それしか手段を知らないことでできることの範囲が狭まってしまうのはもったいないですよね。なので、早いうちからお金に触れる体験をすることは大切だと思います。
デジタル機器の活用で、“体験の多様性”を広げる
- 高岡
- 学校ではすでに教科ごとの授業時間数が決まっていたり忙しさがあったりと、子どもたちの体験の多様性を広げることに難しさを感じている先生は多いのではないかと思います。具体的にどのようなアプローチをしていけば良いのでしょうか?
- 正頭
- 授業の中で新しい実践をしようと思っても、時間がないわけですよね。その状況に対して時間を生み出してくれるのが、GIGAスクール構想で取り入れられているデジタル機器の活用だと思います。 例えば、1つの単元を8時間で終わらせないといけない場合でも、学習アプリや授業支援ツールを使うことで6時間に短縮することができる。残った2時間で、新しいチャレンジができるわけです。ファーストステップは、時間をつくること。その上で、残った時間でどんな実践をしていけばいいか考えてみてほしいですね。
- 高岡
- 体験の多様性を広げるために、デジタル機器は上手く活用できると良さそうですね。「新しいチャレンジ」というと、どのようなことができるでしょう?
- 正頭
- 新たなことをやってみるハードルを下げるためにエデュテイメントの要素を入れた教材を使ってみてもいいですし、何らかの体験をしてみるのも良いと思います。子育て中の先生であれば、実際にご家庭で「OYACONET-QUEST」をやってみることで教材研究にもつながると思います。子どもに興味を持ってもらうための切り口としても参考になりそうです。
- 高岡
- そうですね。「OYACONET-QUEST」はご家庭向けの教材ですが、将来的には宿題としても使ってもらえるといいなと思っています。学校で学んだことを日常生活での学びにつなげるようなイメージです。教材を使うことで先生方の負担を減らすことにもつながるのが理想的ですね。今日は、参考になるお話をありがとうございました。
まとめ
AIの進歩により、役立つことを学ぶ時代は終わりを迎えつつあります。そんな現代に必要とされているのは、子ども自身が「好き」「面白い」と感じることを増やし、情熱を持って学べる機会を提供すること。
正頭先生からは、エデュテイメントを切り口にした学校での具体的なアプローチ方法についてお話いただきました。子どもの年齢が低いほど、体験の多様性は広げやすくなりますが、中学生や高校生でも、自分の好きなことと出会うきっかけは十分つくることができます。子どもたちの体験の多様性を広げるアプローチの一つとして、「やってみよう」のハードルを下げるエデュテイメントが求められていると感じました。
ホワイトペーパー(お役立ち資料)OYACONET-QUEST®活用のご提案
学校プロモーションにも「OYACONET-QUEST」をお役立てください
OYACONET-QUESTは、学校プロモーションにも効果的にご利用いただけます。 学校のご要望をもとに、担当者が学校の特色や授業、施設・設備、行事などを詳しくお伺いし、それらを題材として、子どもたちが楽しみながら体験できるオリジナルクエストを作成します。 完成したクエスト・カードを、学校説明会やオープンキャンパスで学校を訪れる小学生の親子に配布すれば、校内を楽しく回遊しながら、学校への理解や愛着を深めてもらうことができます。 学校広報ご担当者様向けの資料をご用意していますのでぜひご覧ください。