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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 【事例紹介】「ピースダイアログ」で自分にとっての平和を考える ~常葉大学附属橘高等学校~

2024.05.07
国内プログラム
修学旅行
探究学習
キャリア教育
平和学習
事前事後学習

広島を拠点に日本全国で平和活動を行う若者とともに、平和について語り合い、自身のあり方を見つめる平和教育プログラム「ピースダイアログ」。

NPO法人Peace Culture Village(以下、PCV)が中心となってプログラムの運営を行い、JTBとともに多くの子どもたちに対話を通した平和学習を届けてきました。

広島の記憶を継承する担い手が“若者”であることの価値はどこにあるのか。そして、なぜ“対話”なのか。プログラムに込めた思いを、PCVの運営メンバーに聞きました。

ピースダイアログとは、平和活動を行う若者(ピースバディ)と語り合いながら、子どもたち自らが「自分にとっての平和」について主体的に考えていく対話型プログラムです。

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過去はすベて、今の私たちに繋がっている

山口さん
「広島で生まれ育った私は、当たり前のように広島の歴史を学んできました。けれど、自分の中に残ったのは『怖い』というイメージだけだったんです」

子ども時代を振り返りながらそう語るのは、PCVで平和共育事業統括ディレクターを務める山口晴希さん。

毎年日本中の子どもたちが広島に学びに来ているにもかかわらず、「過去の恐ろしい出来事」という印象を与えるのみで終わってしまう。そんな平和学習のあり方に疑問を抱いていたと言います。転機となったのは、学生時代に1年間滞在したカナダでの体験でした。

NPO法人PCV 平和共育事業統括ディレクター 山口晴希さん
山口さん
「世界の人から見て、“HIROSHIMA”は特別な場所なんだと知りました。まずは私自身が広島のことを自分の言葉で伝えていける人になりたいと思い、改めて広島のことを学び始めたんです。でも、当時は大学生で仲間はいませんでしたし、すごく孤独でした。広島や原爆という言葉を目の前に、何をどう伝えていけばいいのかもわからなくて。『私にはこんなことできない』と諦めかけていました」

そんなとき、偶然PCVのメンバーと出会います。「PCVが伝えたいのは、未来なんだ」というメンバーの言葉は、山口さんの視野を大きく広げてくれるものでした。

山口さん
「最初は、『過去を学ぶことが未来って、どういうこと?』と思っていました。でも、話を聞けば聞くほど、これは未来に繋がることなんだと確信するようになりました。広島で起こったことは、ただの歴史の1ページではない。すべては今の私たちに繋がっていることであり、これからどんな未来をつくりたいのかを考えていくことが学びなんだと思ったんです」

当時、2019年。新たな平和教育プログラム「ピースダイアログ」の開発に向けて、PCVとJTBが共同で動き始めたタイミングでした。メンバーから声をかけられたことをきっかけに、山口さんはプロジェクトに参画することを決めます。

若者から若者へ。「平和」を伝え、ともに学ぶ

平和教育プログラム「ピースダイアログ」は、平和記念公園内を80分ほどかけて歩く「ピースパークツアー」のほか、平和文化について対話する「ピースワークショップ」、広島を訪れる前のマインドセットや訪れた後の振り返りを行う「オンライン事前事後学習」の3つが柱となっています。2020年からの3年間で、約42,000人もの子どもたちが「ピースダイアログ」に参加しました。

山口さん
「これまで多くの生徒にプログラムを提供してきた中で、たくさんのことを学んでくれたのは喜びの一つです。それと同時に、私にとってはピースバディの成長を見続けられることも、何より嬉しいことです」
ピースバディ

と山口さんは笑顔を見せます。
ピースバディとは、生徒たちと対話しながら平和記念公園内を案内したり、ワークショップのファシリテーターをしたりする若者たちのこと。生徒たちとともに平和について考えていく仲間のような存在でありたいという思いを込め、“ガイド”ではなく、“バディ”と呼びます。10代から20代の大学生や社会人が中心となっており、平和の継承者としての役割も担っています。

ピースバディの“問い”から、自分自身と向き合っていく

大学2年生の西本愛希さんは広島で生まれ育ち、毎年8月6日は必ず平和記念公園へ行き、黙祷を捧げてきたと言います。学校でも平和教育を受けてきたため、「広島のことはよく知っている」と思っていたそう。そんな中、ドイツを訪問した際に上手く説明ができなかったことがきっかけとなり、ピースバディになることを決めます。

西本さん
「これだけ時間を費やして広島のことを勉強してきたのに、私は何も知らなかったんだと思いました。それで、もっと学びたいと思ったんです」

2023年秋、修学旅行で訪れた高校生に向けて、元気よく平和記念公園内を案内する姿がありました。西本さんは大きなボードを手に、写真を見せながら当時のことを生徒たちに説明します。公園内で立ち止まり、「8月6日の朝、ここに住んでいる人は何をしていたでしょう?」と問いかける場面もありました。原爆が投下されたことで、当たり前の日常が一変した。問いかけや対話を通して、自分たちと変わらない人々の暮らしがあったことを伝えていきます。

ピースバディ 西本愛希さん

ピースバディを始めた当初は、「上手く説明できるか」を気にしていたという西本さん。今は「生徒たちにどう伝わったか」を意識するようになったと言います。ピースパークツアーの最後はグループごとに集まり、印象に残ったことや自分が大切にしたいものについて振り返り、仲間と共有します。平和記念公園内の一角で、真剣にクラスメイトの言葉に耳を傾ける生徒たちの姿がありました。

振り返りの様子

種をまき続けることで、小さな芽が出る瞬間がある

社会人でピースバディとなった浅海智絵さんは、自身の役割を「種まき」だと言います。

浅海さん
「いろんな生徒たちと関われることは楽しいですし、私自身が学ばせてもらっている感覚があります。中高生のときに平和について学び、興味を持ってくれる子が増えたら、世界はきっと良くなる。私たちがやっていることは、その種まきなんです」

そう話す浅海さんが大切にしているのは、生徒たちの様子によってアプローチを変えていくこと。「スケジュールによってはすでに疲れていたり、平和学習にそこまで関心が向いていなかったりすることもありますよね。なので、まずは生徒たちに合った関わりをするようにしています」と浅海さん。最初は「平和学習なんて面倒くさい」と言っていた生徒が、やり取りをする中でどんどん表情が変わっていき、最後は「自分にできる小さなアクションって何だろう?」と考えるまで変化することもあるのだとか。

ピースバディ 浅海智絵さん

ツアーが終わっても、ピースバディの学びは終わらない

そんな風に思いを持って生徒たちと向き合うピースバディは、現在100人を超えています。中には、高校時代に「ピースダイアログ」に参加したことがきっかけとなってピースバディになった学生も。実は、PCVは継承者の育成として、ピースバディに向けて充実した研修プログラムも用意しています。

PCVの文化として根付いているのは、毎回メンバー同士で行うチェックインとチェックアウト。ピースパークツアーの前には必ずその日の意気込みや意識したいことをそれぞれが話し、仲間と共有します。ツアーを終えたあとは、良かった点や改善したい点を再び仲間と共有。上手くいかなかったことを共有することで、ピースバディ同士がアドバイスし合うこともあります。チェックインとチェックアウトのねらいを、山口さんはこう話します。

チェックインの様子
山口さん
「ツアーが終わっても、私たちの学びが終わるわけではありません。ツアーが終わるごとに振り返り、改善していくことでまた次のツアーに繋げていく。それを繰り返しているから、ピースバディのレベルの高さが保たれているんだと思います。中には、チェックアウトの時間に涙を流すピースバディもいます。その理由は、悔しさだったり、嬉しさだったり。一生懸命向き合っているからこそ出てくる涙なんだと思います」

常葉大学附属橘高等学校のプログラム実施の様子を動画でご紹介しています。

詳しくはこちら(動画にリンクします)

ピースパークツアーに参加した先生と生徒の声

「ピースダイアログ」の導入を決めた先生や参加した生徒は、プログラムについてどのように感じているのでしょうか。修学旅行で広島に訪れた常葉大学附属橘高校の先生と生徒の感想をご紹介します。

常葉大学附属橘高校 佐藤宣昭先生

本校では毎年修学旅行で広島に行くのですが、平和学習をしても「すごい」「怖い」など、どこか他人事のような感想で終わってしまうことが多いことが課題でした。短い時間の中でも生徒の心に残るプログラムはないかと考えていたときに、JTBさんからピースパークツアーを紹介していただきました。ツアーに参加している生徒たちの様子を見ていると、いつも以上に真剣な表情だと感じましたね。ピースバディの方と生徒の年齢が近く、話を聞いたり意見を言ったりしやすかったのではないかなと思います。

2年生 桑原るりさん

原爆の話は恐ろしさもありましたが、ピースバディの方がフレンドリーに話してくれたので、ただ暗い気持ちになるのではなくて、前向きに学ぶことができました。一番衝撃を受けたのは、私たちのように普通に生活している人の暮らしが一瞬にして崩されてしまったことです。今の私たちが大切な人に囲まれて生活できているのは、本当に幸せなことなんだと思います。そのことを感じながら1日1日を過ごしていきたいし、家族にも友達にも感謝の気持ちを忘れないでいたいと感じました。

2年生 諸角木葉さん

広島のことは教科書で学んだことがありましたが、歴史の一場面としてしか考えられなくて、どこか実感が湧かない感じがありました。ツアーではピースバディの方の話を聞きながら、「もし自分がその時代に生きていたら、どうなっていただろう?」と考えるきっかけになりました。そして何より、戦争について学んで自分にできることをしているピースバディの存在に刺激を受けました。私ももっと自分ごととして行動していきたいなと思います。

同じビジョンを持つ仲間とともに、旅の可能性を拡げる

平和教育プログラム「ピースダイアログ」は、「MY LIV PROJECT~私のWell-beingに出逢う旅~」のプログラムの一つ。LIVは、デンマーク語で「人生」や「存在」といった意味をもつ言葉です。

たった一人との出逢いで、人生は変わる。

私たちはそう信じ、多様な日本全国の仲間と手を取り合い、子どもたちの人生に価値ある出逢いと対話の機会を創出します。

そして、プロジェクトに関わる全ての人が共に学びあい、成長し、一人一人の中にあるWell-beingが、他者や地域社会へ派生・循環する、平和で心豊かな社会の実現を目指します。

MY LIV PROJECTとは、旅を通して子どもたちの人生に価値ある出逢いと対話の機会を創出し、未来の可能性を拓くプロジェクトです。

詳しくはこちら

「ピースダイアログ」では、「平和」をキーワードに、共通の思いを持つPCVとともにプログラムを作り上げてきました。あらかじめ決められたプログラムをそのまま提供するのではなく、先生と対話を重ねながら、子どもたちの可能性を拡げる旅を創っていきたい。私たちはそう考えています。

ピースダイアログとは、平和活動を行う若者(ピースバディ)と語り合いながら、子どもたち自らが「自分にとっての平和」について主体的に考えていく対話型プログラムです。

詳しくはこちら

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