【前編】に続き、探究活動を軸にした学校改革を進める大阪府の追手門学院中・高等学校の事例をご紹介します。今回の【後編】では、高校2年生前半まで積み上げてきた探究活動の「本番」として修学旅行を位置付けた同校の取り組みを紹介します。その狙いとこれから実施される修学旅行での活動計画について、学習推進部部長の阿部宰先生と探究科主任の池谷陽平先生にお話を聞きました。
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学校プロフィール
追手門学院中・高等学校
1947年開校。中学校は特別選抜、特別進学コースを擁する。高校は、特選SS、Ⅰ類、Ⅱ類、スポーツ、表現コミュニケーションコースがあり、2022年から創造コースを新設する。
- 生徒数
- 中学校196名、高等学校1,053名(2021年7月現在)
- 所在地
- 大阪府茨木市太田東芝町1-1
- ホームページ
- https://www.otemon-jh.ed.jp/
探究活動における修学旅行の位置付けの転換
― 2021年から修学旅行を大幅に変更したとお聞きしました。その狙いを教えてください。
阿部先生
以前までは学年全員約400人で北海道に行っていました。川下りや牧場体験などの体験学習を旅行の中心に据え、生徒たちから人気のある行事でした。ただ、探究科が発足して、改めて行事を精査していく中で、「現在の修学旅行は楽しいけれど、日頃の教育活動からは浮いてしまっている」という課題が浮き彫りになりました。
「生徒たちの思い出に残る活動ができている」という意味では成功しているのですが、修学旅行が教育活動と分断されているのは非常にもったいない。そこで、2019年に修学旅行の刷新の検討を始め、今年から新たな取り組みをスタートさせました。
― 修学旅行をどう探究活動の中に位置付けたのでしょうか。
池谷先生
高校1年生では「アート」などを切り口に、自分と向き合い、社会を見る解像度をあげていきます。高校2年生の修学旅行までの期間は、「アントレプロジェクト」で「共感→問題定義→アイディア創出→プロトタイプ作成」のサイクルを回す練習をします。 (詳細は【前編】参照)
そして、「自分は社会にこんなメッセージを発信したい」「世の中に対してこんな課題を抱いている」ということを掴んだ上で、修学旅行という探究活動の「本番」に向かいます。
高校1年
- LSP/今の気持ちを「レゴ」で組み立てる
- アートで表現/写真や動画で自分自身の価値観を表現
高校2年
- アントレ/共感をベースにデザイン思考を体験
- 探究旅行/実際の声に耳を傾け、自分たちの可能性を試す
高校3年
- マイプロジェクト/自分で決めたテーマで行動を起こす
阿部先生
「アントレプロジェクト」で積み上げた練習を、修学旅行で出会ったリアルな課題の解決に生かしていくのです。
池谷先生
毎日の学校の中での「日常の学び」は筋力をつける意味で非常に重要です。そして、「圧倒的な原体験」と呼んでいるのですが、「非日常」の中で得る学びの最たるものが修学旅行です。この原体験があることで、生徒たちの「日常の学び」のモチベーションも一気に高めることができます。だからこそ、日常と非日常の学びの連携が大切になります。
リアルな課題意識を育む修学旅行での実践内容
― 具体的に修学旅行をどのように変更しましたか。
阿部先生
学年の生徒を3つのグループに分けて、それぞれ4泊5日で九州、秋田、高知へ行くプログラムを作成しました。行き先は、「生徒自身ではあまり行かない場所」という観点で決めました。北海道や沖縄、東京などは中学校の修学旅行で行っていたり家族旅行で訪れたりしています。多くの生徒の馴染みのない地域で、かつ探究を実現できる場所を選びました。
― 修学旅行先ではどのようなプログラムを予定していますか。
池谷先生
それぞれのエリアでテーマを決めています。例えば、九州は大分県、熊本県、長崎県を横断するのですが、「各地域の特色に伴う独自の課題に直接触れ、どんな解決策を生み出せるか。行政、県職員の方にその解決策をプレゼンし、5日間で形にしよう!」としています。
取り組み例としては、高齢化が進み若年層が減少傾向にある国東・佐伯・臼杵と、その反面観光事業が進み、他地域からの移住者が増えている由布、それぞれの地域が抱える課題は何かをヒアリングします。民泊を通じて現地の人々と直接触れ合うことで、リアルな課題を掴むことができると考えています。その課題設定から、自治体にとって魅力的な提案をすることにつなげていきたいと考えています。
― 地域の住民と触れ合う中で、課題意識を育んでいくのですね
池谷先生
そうです、実際に何に困っているのかをインタビューして、共感しきった状態でないと、どこに課題を設定すればよいか本当の意味で具体化することはできないはずです。実際に地域のお年寄りの悩みなどを聞くことで、生徒は少なからず衝撃を受けるはず。妄想をベースにした探究活動ではなく、「出会ったおばあちゃんを救いたいから、この課題の解決策を本気で考えてみよう」という心のこもった実践につなげていきたいです。
阿部先生
ヒアリングの上、課題を5つほど抽出し、自分はどの課題に一番心が揺さぶられるかを選択、それを解決するアイディアを出していきます。この工程では、アントレプロジェクトでの学びが生きます。
また、地域の大学などとの協働を予定しています。本校からこれらの大学へ進学する生徒は決して多くはありません。しかし、本質をついた探究的な学びを行なっている大学と、地域をフィールドにして協働することで生徒がたくさんのものを得られると考えたのです。
修学旅行後での学びをどう生かすか?
― 修学旅行から帰った後にはどのような探究的な活動を行いますか。
― 生徒たちの探究を深めるために大事にしていることを教えてください。
阿部先生
修学旅行に限らず、探究の授業の最後には、必ずリフレクションの時間を設けています。授業中は生徒同士が対話しているので賑やかですが、この最後の時間は全員静かに振り返りを記入します。リフレクションには、「そもそも私は、こういうことを問題だと思っていたんだ」「みんなの意見を聞いて自分の考えの特徴に気づいた」といったことが書かれています。内省し、次につながるステップを言語化できている様子がうかがえます。修学旅行でもこのリフレクションを大事にしていきたいと考えています。
また、生徒のリフレクションには、教員が取り組みを改善するための重要なヒントが詰まっています。リフレクションに真剣に向き合い、指導の見直しに生かしていきたいと思います。
― 探究活動と進路指導はどう接続していく予定ですか。
池谷先生
修学旅行の発表会を12月に終え、個人のプロジェクトに戻ります。その中で、「本当にやりたいこと」に目を向けて行動にまでつなげていきます。探究活動の中で、「こういうことをしたい」ということが見つかれば、「この学部に行きたい」「こんなことを学びたい」という進路の目標設定につながるはずです。
さらに、探究活動を経ることで、総合型選抜や推薦入試の自己推薦理由書に書く内容が充実します。グループディスカッションや小論文で、自身の課題意識を表明できることも強みとなるでしょう。決して受験のための探究活動ではありませんが、結果的に新たな大学入試に対応する力を養うことができていると考えています。
探究活動を通じた生徒の成果
― 現段階でお感じになっている成果や手応えを教えてください。
池谷先生
探究活動の成果を数値化することは非常に難しいです。もちろんルーブリックで推し量ることはできますが、成果がすぐ出る生徒もいれば大学に入ってから芽を出す生徒もいるでしょう。1+1が2になるようなシンプルな評価はできませんが、だからこそ、学校という教育の専門機関で取り組む意味があると思うのです。
― これからの展望を教えてください。
阿部先生
逆説的な表現ですが、本校から探究科がなくなるほど、探究の視点が全ての学校教育活動に浸透していけばよいなと思っています。本来であれば、どの授業でもプロジェクトを回して、課題解決し、教科横断的に学んでいくことができるはず。そうすることで、より社会で生きる力をつけていくことができます。探究がそんなふうに「当たり前」になっていくことを私たちは目指しています。
まとめ
前・後編の2回にわたり、追手門学院中・高等学校の探究活動をご紹介してきました。 追手門学院中・高等学校はカリキュラムマネジメントの基軸に探究を置き、1年生で「アート」、2年生で「アントレプレナーシップ」といった体系を構築しました。そしてその探究活動の山場として、修学旅行を設定しています。今回の後編では、その修学旅行について掘り下げてお話をうかがいました。リアルな体験から課題発見ができる修学旅行は探究活動において非常に重要なポイントとなります。
今後、修学旅行を探究活動に連動させる取り組みは一層注目されていくでしょう。そのヒントとして、追手門学院中・高等学校の修学旅行改革のポイントと旅行先での活動計画を資料「探究活動デザインと修学旅行改革」にまとめました。ぜひご一読ください。