注目の高まる探究活動、生徒の学びを深めるためのポイントとは?
2020年の教育改革では、新しい時代に必要な資質・能力として「学びに向かう力、人間性等」「思考力・判断力・表現力等」「知識・技能」の3つの柱が掲げられ、それらを育むために「主体的・対話的で深い学び」という視点が示されました。その内容を反映した学習指導要領が2020年度より小学校、中学校、高等学校で段階的に導入されています。
その中でも高校の学習指導要領に取り入れられた「探究活動」に、いま学校の注目が集まっています。探究活動の重要性は認識しているものの、具体的な指導法がわからないとお困りの先生も多いのではないでしょうか。
そんな中、JTBでは、探究活動を効果的に進めるために欠かせない「課題研究」の実践手法をテーマに、「SDGs課題研究セミナー(※1)」を3回にわたってオンライン開催しました。本記事ではセミナーに登壇された「課題研究メソッド」の著者である岡本尚也先生(※2)のお話をもとに、主体的、対話的で深い学びを実現するための「指導のポイント」と、生徒の成長を加速させる「研究発表の場」について紹介します。
セミナーでは、効果的な課題研究の指導方法だけでなく、適切な研究発表の場を設けることの重要性を説明。校外での発表や交流、体験機会を含めることが、生徒により深い学びを与える点を事例をまじえながら紹介しました。具体的な実例として紹介した「国際課題研究コンテスト」「課題研究発表イベント」の様子については、ダウンロード資料にまとめましたので、ぜひ併せてご覧ください。
※1 開催日 1回目2020年4月25日(土)/2回目2020年5月30日(土)/3回目2020年6月27日(土)
※2 一般社団法人Glocal Academy代表理事 岡本 尚也 氏
著書に、「課題研究メソッド―よりよい探究活動ために」、「課題研究ノート」、「課題研究メソッドStart Book―探究活動の土台づくりのために」(いずれも新興出版社啓林館)などがある
※参考:学習指導要領改訂に関するスケジュール
主体的・対話的で深い学びを実現する課題研究の指導とは?
課題研究は通常の授業と違い、1つのテーマについて生徒が長い時間をかけてじっくり取り組むものです。生徒が研究や調査を重ね、頭で考え、他者とディスカッションし、みずから学び課題解決していく能力を育成するのが先生方の役目でもあります。そこで、生徒が主体的に取り組むことで学びが深まる指導のポイントを2つ解説します。
指導ポイント01興味をもって取り組める研究テーマを決めさせる
課題研究を進めるうえで、重要かつ難易度が高いのが研究テーマの決定です。生徒自身の興味・関心のみでテーマを決められる自由研究と違い、課題研究としてふさわしいテーマであることは大事です。加えて、生徒が時間をかけてじっくり取り組む必要があるため、生徒自身が主体性をもって選ぶことも必要です。生徒が興味をもって取り組めるようなテーマに導くには、どうすればよいのでしょうか?
ポイントは、「興味・関心のあること」「社会・学術の課題」「進路の要素」という3つが重なり合うテーマを選ばせることです。
生徒にテーマを選ばせようとすると、安易に「社会・学術の課題」から選ぶというパターンになってしまいがちです。特にSDGsは大きな世界的課題であるため、本人の興味・関心を伴わずにその中から研究テーマを選ばせてしまうと、「他人事の研究」になってしまいがちです。SDGsは参考知識として利用しながら、生徒自身が「興味・関心」をもっている事柄は何かという点から考えさせることが第一歩です。
さらに高校生ともなると、「進路」の要素を組み込むことも効果的です。たとえば「コロナウイルス」に関心のある生徒が、社会・学術的にも課題である「コロナウイルス」の研究をしたいと考えたとしましょう。希望進路が医学であれば、「医療従事者として命を救いたい」、経済学であれば、「パンデミック後の経済政策・金融政策の方法」など、方向は大きく変わります。
このように、「興味・関心」「社会・学術の課題」「進路」という3つの要素を加味してテーマを決めるということが重要なのです。
指導ポイント02「マジックワード」に気をつけることで学びが深まる
高校生の課題研究において岡本先生が一番問題だと感じているのは「マジックワード」だと言います。マジックワードとは「平和で安全な社会」など、言葉の定義が曖昧でなんとなく聞こえのよい言葉のことです。マジックワードは周囲から反対されることの少ない大変便利な言葉ですが、使いすぎると物事の中身の掘り下げが弱く浅い探究活動となってしまいます。
課題研究を行う際はこのマジックワードに気をつける必要があります。具体的な指導方法としては言葉の「言い換え」を行わせることです。マジックワードが出てきたら生徒の頭の中で、それを別の言葉を使って表現させてみましょう。自分がその言葉をどういう意味で使っているかを明らかにしていくことが、学びを深める近道です。そのためには図書館などを使って情報を調べさせ、知識をインプットさせることもポイントです。
よい研究とは、大きくて抽象的な研究ではなく、より小さく、具体的で深められた研究なのです。
校外での研究発表や海外での交流・体験が生徒を成長させる
セミナーの中で岡本先生は、課題研究の発表は「効果的で強烈な自己紹介である」と言います。生徒自身が深い学びを得た課題研究であればあるほど、それは聴衆の心に残り、発表者である生徒自身を印象づけるものになるからです。この「効果的で強烈な自己紹介」をもって他者と交流することで、強い共感から将来の同僚や同志と出会え、専門家との会話の価値も圧倒的に高まるのです。
研究発表の場は校内だけでなく、校外へも目を向けよう
課題研究で学びを深めた生徒をさらに成長させるためには、研究発表の場を校外へ向けることも重要です。生徒自身も、学校内の友人たちに向けて発表するのと、他校の生徒や先生、地域の大人、その道のスペシャリストに向けて発表するのとでは、自ずと心構えが違ってきます。また、海外で行われるコンテストでは英語による発表が海外の有識者に通じたという経験が自信となって、英語力や研究意欲の向上につながるケースもあります。
課題研究を通じた海外での交流や体験が生徒を羽ばたかせる
研究発表の場を海外にするメリットの1つとして、生徒を大きく成長させる「交流」や「体験」を味わえることがあげられます。課題研究を通じて価値観の異なる海外の同世代と出会い、意見を交わすことはその後のものの見方や考え方に大きな影響を与えます。また、海外での様々な体験を通じてその国や地域の持つ様々な課題やその背景を深く理解することは、研究テーマと生徒の進路とを結び付けるきっかけになります。
セミナーでは、発表の場を海外におき、さらに多くの体験をさせた実例として以下のような内容を紹介しました。
アジア地域を中心とする世界各国の中高生が、自分たちの研究成果を発表する国際舞台です。全員が英語を使って発表し、プレゼンテーションやディスカッションを通じて交流できるというプログラムです。
・オーストラリアのクイーンズランド州で行われた「課題研究発表イベント」
アジア太平洋地域を中心とする世界各国の小中高生が、英語を使って発表する国際舞台です。このコンテストはSDGsの環境問題に焦点をあてており、研究発表だけでなく、環境保護に取り組む現場を体験できる総合的なプログラムとなっています。
詳しい内容は、 ダウンロード資料としてまとめましたので、ぜひご覧ください。
まとめ
いま学校現場で注目のテーマを取り上げた、「SDGs 課題研究セミナー」は、オンラインにて3回にわたって開催され、のべ2,500名以上の方にご参加いただき大盛況のうちに終了しました。参加された先生方からは「ぜひ生徒にも課題研究に取り組ませたい」などの前向きな声が寄せられています。
今後、課題研究を通じてより深い学びを実現するためには、課題研究や探究活動をそれ単体で考えるのではなく、学校の教育目標やカリキュラムと関連づけたうえで、校外での研究発表や海外での同世代交流、体験を取り入れた行事の開発とセットで組み立てていくことが重要なポイントといえます。
ヒントとなる資料として、記事内でも紹介した「国際課題研究コンテスト」や「課題研究発表イベント」の事例をはじめ、その他のプログラムも紹介しましたので、ぜひダウンロードしてください。実際に体験した生徒の感想や先生からみた生徒の成長ぶりも併せて紹介しています。