この記事では、人事・総務担当者向けに、福利厚生の種類について紹介します。福利厚生を充実させるメリットやデメリット、導入の流れなども取り上げています。最後には、お役立ち資料「総務課長!君が会社を変えてくれ」の漫画でわかりやすく紹介しております。ぜひご覧ください。
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INDEX
福利厚生とは
福利厚生とは、給与や賞与などの労働対価に加えて、従業員とその家族に提供する報酬の総称のことです。
どのような福利厚生を提供するかは、企業によってさまざまです。例えば福利厚生の一環として、独自の休暇制度や、カフェをはじめとする社内施設サービスなどを提供する企業もあります。
一部法律上で定められた制限は存在しますが、基本的には企業側で自由に福利厚生の内容を設定できます。
福利厚生の種類
福利厚生には法定福利厚生と法定外福利厚生の2つがあります。それぞれの違いや充てられる予算の傾向は以下のとおりです。
法定福利厚生
法定福利厚生とは、その名のとおり法律で定められた福利厚生のことです。法定福利厚生は要件や内容が定められており、企業側は必ず導入しなければなりません。また、制度を維持するための費用は企業と従業員が負担しますが、なかには企業が全額負担する場合もあります。
法定福利厚生は以下の6つです。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
- 介護保険
- 子ども・子育て拠出金
法定外福利厚生
法定外福利厚生は、法定福利厚生以外の福利厚生で企業が任意で導入するものです。宣伝目的も兼ねユニークな制度を導入する企業がある一方で、法定外福利厚生を一切導入していない企業もあります。
主な法定外福利厚生は以下のとおりです。
- 住宅手当
- 各種休暇
- お祝い金やお見舞い金
- 社員食堂
- 施設などの利用割引
- 健康診断などの費用補助
- 資格取得支援制度
- 退職金
- 企業型確定拠出年金
福利厚生にかける予算の傾向
従業員1人の1か月分の法定福利費は、1990年度の4万8,600円から、2019年度は8万4,392円へと増額しています。
逆に、法定外福利費は、2万5,882円から2万4,125円にまで減額しました。減額の主な理由は、住宅関連などコストの高い制度が削減されたためです。
参考:2019 年度福利厚生費調査結果の概要 | 一般社団法人 日本経済団体連合会
法定福利厚生の種類
企業に義務付けられている法定福利厚生について、それぞれの内容や費用負担の割合は以下のとおりです。
健康保険
健康保険は、従業員やその家族が病気や怪我、出産などをした際に、医療給付や手当を支給する制度です。また、保険料は企業と従業員が半額ずつ負担します。
厚生年金保険
厚生年金保険は、国民年金保険と同じ公的年金制度の1つです。厚生年金保険は国民年金に上乗せされる形で支給され、原則として65歳から給付が始まります。保険料は、企業と従業員が半額ずつ負担します。
雇用保険
失業保険とも呼ばれる雇用保険は、失業や休業、育児、介護などを理由に収入が減少した従業員を支える制度です。保険加入期間をはじめとする条件を満たすと、従業員は、失業手当の給付や就職支援、教育訓練講座などを受けられるようになります。
労災保険
労災保険は、従業員が仕事中や通勤時に被った傷病に備える保険制度です。保険料は全額企業が負担し、給付対象者は労働基準法の規定による労働者に限定されています。
介護保険
40歳以上から加入対象となる介護保険は、2000年に創設された比較的新しい保険制度です。少子高齢化が進むなか、介護を社会全体で支える仕組みとして介護保険は生まれました。なお、保険料は企業と従業員が半額ずつ負担します。
子ども・子育て拠出金
2015年に名称が変更された子ども・子育て拠出金(旧:児童手当拠出金)は、税金の1つとして企業に納付が義務付けられています。企業のみに支払い義務が発生し、従業員には費用の負担はありません。
法定外福利厚生の種類
導入が義務付けられている法定福利厚生に対し、法定外福利厚生は内容を自由に決めることができます。従業員の生活をさまざまな方向からサポートする法定外福利厚生について、用途別に詳細を紹介します。
通勤に関する手当
通勤に関する手当は、通勤にかかる各種費用を企業側で負担する福利厚生を指します。手当の対象となる費用は、電車代やバス代、ガソリン代などです。
非課税となる1人あたりの手当の上限は月15万円で、自転車通勤の場合は通勤距離によって上限額が変動します。
住宅に関する手当
住宅に関する手当は、家賃補助をはじめとする住まいに関する福利厚生を指します。企業が費用を一部負担することで、従業員にオフィスに近い場所で暮らしてもらえる可能性があります。ただし、住宅に関する手当をはじめ、現金で支給するものは原則給与扱いとなるため、福利厚生としての計上はできません。
自己啓発に関する手当
自己啓発に関する福利厚生を提供している企業も見られます。手当が導入される目的は、従業員の自発的なキャリア形成のサポートです。手当の範囲は柔軟に設定可能です。例えば資格手当は、資格試験の受験料だけではなく、テキスト代や会場までの交通費などにも適用できます。
食事に関する手当
食事に関する手当の主な目的は、従業員の健康管理やコミュニケーションの促進です。食事の提供形態は、社員食堂や、オフィス内での弁当販売、配達サービスなどがあります。
食事関連を福利厚生として扱うには多くの条件をクリアする必要があるため、事前に詳細な確認が必要です。
余暇やレクリエーションに関する手当
余暇やレクリエーションに関する手当の主な目的は、従業員の保養や日々の労働に対する労いです。社員旅行や保養施設の割引などが挙げられますが、近年はサークル活動の費用補助を行う企業も増えています。
健康やヘルスケアに関する手当
健康やヘルスケアに関する手当の主な目的は、従業員の健康の維持と促進です。具体的な手当には、人間ドックの費用補助や医務室の設置などが挙げられます。また、法律上定められている項目であれば、すべての診断費用を福利厚生費として計上可能です。
近年の福利厚生のトレンド
人々のライフスタイルの変化を受け、福利厚生のトレンドは変化しています。
社員寮や保養施設をはじめとする「物理的な福利厚生」は、従来に比べ利用率が低下する傾向にあります。
代わりに、フレックスタイム制度や在宅勤務制度によるワークライフバランスの推進、健康診断やメンタルヘルスケアなど、「従業員の生活の質を高める福利厚生」が重視されるようになりました。
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福利厚生を充実させるメリット
福利厚生を充実させるメリットを、企業の視点から紹介します。従業員を支える福利厚生の充実は、企業にもメリットをもたらします。
定着率が上昇する
福利厚生を充実させると、企業に対する従業員エンゲージメントが高まり、その結果、定着率が上昇します。労働環境に問題がある企業は、従業員の離職率が上昇しやすくなります。福利厚生により働きがいのある環境を整備することが、人材確保のポイントです。
生産性が向上する
労働人口が減少傾向にある近年において、生産性の向上はどの企業においても重要な課題です。従業員のワークライフバランスを意識した福利厚生を導入すると、働きやすさによる業務へのモチベーションが高まり、その結果、生産性が向上すると見込まれます。
また、生産性が向上することで収益が改善されると、さらなる福利厚生の充実が可能になるという好循環も期待できます。
企業イメージが向上する
福利厚生の充実により企業イメージが向上すると、優秀な人材を確保しやすくなります。近年は、勤め先を選ぶにあたって、福利厚生を重視する求職者が増えているためです。福利厚生に対し満足を覚えた優秀な人材が、長期的に在籍してくれる可能性も高まります。
福利厚生を充実させるデメリット
一方、福利厚生を充実させることで、費用や管理に関する負担や、従業員のニーズとマッチさせる難しさといったデメリットもでてきます。
費用負担が大きい
福利厚生のデメリットとして、費用負担の大きさは注目されがちです。福利厚生は無料で用意できるものではないため、従業員数が多い企業ほど費用負担が増えます。
ただし、企業側が費用面を懸念しすぎると、他社に対する福利厚生の見劣りから、優秀な人材の雇用機会を逃すリスクがあります。費用対効果を入念に検討し、自社に必要な福利厚生を導入することがポイントです。
管理負担が大きい
福利厚生の数が増えると、比例して管理の手間も増えます。制度によって、処理方法や書類作成の手順が異なっている場合があるためです。
管理を外部に委託する方法もありますが、ますます費用の負担が増えると考えられます。むしろ、定期的な見直しにより必要な福利厚生を選定すると、管理負担を減らせる可能性があります。
すべての従業員のニーズを満たすのが困難
従業員全員が納得できる福利厚生を用意することは、簡単ではありません。企業には、年齢も性別も異なるさまざまな従業員が所属しているためです。仮に従業員全員のニーズを組み込んだ制度を用意できたとしても、費用や管理に関する負担が膨大になってしまいます。
アンケートやヒアリングなどでニーズを定期的に確認しつつ、不満を感じる従業員に対しては、福利厚生以外の代替案を提示することが得策です。
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福利厚生の注意点
福利厚生を現実的な制度とするためには、適切な種類に限定したうえで、定期的な見直しが必要です。福利厚生の注意点を紹介します。
種類の豊富さにこだわらない
従業員のニーズを把握したうえで、自社に必要な福利厚生を見定めることをおすすめします。
福利厚生の種類を増やすほど、多くの従業員を満足させられる可能性が高まりますが、費用や管理の負担が増えてしまうため慎重な検討が必要です。また、制度の種類が多すぎると、従業員としても福利厚生の内容を把握しきれない恐れがあります。
利用しにくさが不満につながる懸念もあるため、量より質を重視した制度設計が重要です。
定期的に制度を見直す
定期的に福利厚生の見直しを行い、従業員にとって満足度の高い制度を作ることがポイントです。
福利厚生は、すべての従業員が利用できなければなりません。利用できない福利厚生があると、公正さを欠くとして従業員が不満を持ち、その結果、離職率の上昇をはじめとする問題を招く場合があります。
また、定期的な見直しをすると、費用や管理に関する負担軽減も期待できます。
福利厚生を導入する流れ
福利厚生を導入する流れは以下のとおりです。
- 導入目的の設定
- 制度の運用設計
- 費用の試算
- マニュアル作成
- 従業員への説明
- 運用開始
最初に福利厚生の導入目的を明確に設定し、必要な施策を予算内で導入するための方向性を定めます。次に、アンケートなどで従業員のニーズを探り、制度の内容を検討します。自社で運用するか、外部サービスへ委託するかも、運用設計段階での判断が必要です。
続いて費用を試算し、利用条件や利用方法、経費の処理方法などを具体的にマニュアルにまとめます。最後に、従業員への説明を行い、運用を開始します。
福利厚生の具体的な事例
福利厚生の具体的な事例を紹介します。企業や従業員の満足度を高めるには、制度を支えるシステムの選定が重要です。
CASE01日本空調システム株式会社 様
日本空調システム株式会社は、1975年に親会社である日本空調サービス株式会社から独立しました。
同社は、年に1回補助金が受けられる家族旅行補助制度を設けています。当初は予約の取りづらさや空室状況把握の難しさなどの課題がありましたが、ネット予約サービスであるJTBホームページクーポンを導入することでこれらの問題を解消できています。
CASE02株式会社マイナビ 様
株式会社マイナビは、幅広い事業領域で情報発信やサービス提供を行っています。
同社は緊急事態に備え、500社以上の豊富な運用実績がある、JTBが提供するグローバル危機管理システム「アラート☆スター」を導入しました。
災害発生時にリアルタイムで安否確認メールが配信されることが、会社と従業員の双方に安心感をもたらしています。
まとめ
福利厚生には、法定福利厚生と法定外福利厚生があります。法定外福利厚生の種類はさまざまです。自社で働く従業員のニーズを捉えた福利厚生を導入できると、従業員はもちろん企業も大きなメリットを得られます。
福利厚生を効果的に導入・運用するポイントは、近年のビジネス環境を取り巻く課題を知ることです。
「総務課長!君が会社を変えてくれ」は、働き方や職場環境が大きく変化するなかで、従業員が活き活きと働ける環境づくりや、選ばれる企業となるためのヒントが詰まったビジネス漫画です。福利厚生の導入・運用を計画中の人は、ぜひご覧ください。