2024年春、470名のJTBグループ16社の新入社員が新潟県の苗場に集結。将来のビジョンを共有し、新たな一歩を踏み出す、新入社員研修が行われました。
早期退職などネガティブな話題も聞こえてくる昨今。企業は新入社員とどのようにコミュニケーションを図り、関係性を築いていけばよいのか。
JTBの新入社員研修の様子から、社員の育成やエンゲージメント向上のヒントをお届けします。
新入社員の受け入れに対する課題とポイント
-昨今、早期退職をはじめ新入社員の受け入れには複数の課題があると思います。その背景にはどんな要因があると思いますか?
ここ数年、新入社員の方々とコミュニケーションをとっているなかで、ある特徴を感じています。それは、「将来の自分のキャリアを明確に描いている方が多い」ということ。
将来を見据えていることは、とても良いことです。
しかし、企業が自分のキャリアをいかに育ててくれるのか。いかにキャリアを醸成してくれるのか。そんな期待感に近いものを持っていることもあります。
さらに言うと、自分のキャリアを具現化するために自らの成長の場としてふさわしい場なのか、そんな期待感に近いものを持っている社員も多くおります。
ー会社が自分のキャリアにどう繋がるのか、を見ているのですね。
新入社員には、それぞれの志望動機やビジョンがあります。入社の初期段階でそれらを叶える道筋が見えてこないと、会社との乖離が広がっていきやすいように感じます。
結果、早期退職につながりやすくなると思います。
ーギャップや乖離が生まれないためにどうすれば良いのでしょうか?
社員のビジョンはすぐに叶えられるものではないため、将来的に叶えるための道筋を寄り添って考えていく必要があります。
しかし、最終的に、キャリアは自分でつくりあげていかなければなりません。
そのため、新入社員は自分の強みやビジョンを知る、そして、会社のビジョンや戦略を知る。双方を知ったうえで、どんなキャリアを歩むべきかを考え、動き出す。企業は社員が自らキャリアを切り拓いていく、その後押しをする必要があります。
ー新入社員が描くビジョンを起点に育成をしていくことが重要なのですね。
はい。加えて、人事機能のなかで、採用・運用、人事企画(制度)、人財※開発が三位一体になって育成していくことも大切です。新入社員の採用から配属、そして育成の過程に合わせて、3者が“正確に・スムーズ”にバトンを受渡していく必要があります。
JTBグループでは、人をもっとも大切な資産、グループ最大の財産であると捉え「人材」ではなく「人財」としています。
昨今の新入社員研修の変化とは
-新入社員研修は、まさに社会人として、オンボーディングの一大イベントです。近年のトレンドや変化をどのように見ていますか?
新型コロナウイルスが流行する以前は、リアルの場で研修を実施することが一般的でした。その後、新型コロナウイルスが流行してオンライン研修が主流になり、非対面の学びが増えました。それと同時に現場ではコミュニケーションに対する課題感が出てきて、研修を通じたエンゲージメントの醸成がより求められるようになりました。
最近は、リアル研修とオンライン研修を組み合わせ、それぞれのメリットに応じて使い分けがされているように感じます。 情報をしっかりと伝える・理解してもらう研修であればオンラインで実施。気付き・学びなどイノベーションにつながる研修はリアルで実施する、そんな棲み分けがされつつあるように感じます。
-新入社員研修の実施にあたっては、社内で行う場合と外部の企業に依頼する場合があると思います。それぞれのケースにおけるポイントを教えてください。
社内で企画する場合、視野が狭くならないよう注意する必要があります。
新入社員研修は当然、目の前にいる社員に対して行いますが、その先にお客様がいることを忘れてはなりせん。社会やお客様を見据えて、研修を実施することが大切です。また、先輩社員から新入社員にメッセージを伝える際は、業務や現場の狭い話だけにならないよう、社会やマーケットの話を盛り込むことも重要です。
外部の企業に依頼する場合は、事前に会社のビジョンや経営戦略などをしっかりと伝え、プログラムを作成してもらうと良いでしょう。そうすることで、現場の状況に即したメッセージを届けることができます。
経営戦略と人財戦略を重ね合わせ、“自律創造型人財”を育む
-新入社員研修をはじめ、新入社員の育成において、どんな考え方が大切だと思いますか?
近年、社会の変化により、事業の在り方を見直す企業が増えています。JTBも同様で、従来の旅行業から、交流創造事業を事業ドメインとし、あらゆる交流を創造し、お客様の感動・共感を呼び起こすために中核事業以外にもマーケットを広げています。
社会やビジネスの変化に伴い、お客様の課題やニーズは複雑になっております。加えて、ソリューションを提供することも容易ではなくなってきており、企業は将来の成長に向け、戦略そのものを見直すケースが増えています。
経営戦略や事業戦略が変化しているなかで、人財のスキル・マインドが今までと同様では追いついていきません。そこで、経営戦略と人財戦略を重ね合わせていくことが大切です。
-経営戦略と人財戦略を重ね合わることで、企業のビジョンに即した人財が育成されていくと。
はい。JTBでは、経営戦略を実現するために「自律創造型人財」の育成を掲げています。「ヤングプロフェッショナルプログラム」という4年間の育成プログラムを設定し、「自律創造型人財」の素養を身につけるための研修を新入社員研修含め5回実施。研修と研修を繋ぐ施策として「ヤンプロ道場」というOJTを補完するオンラインでの学びの場を提供しています。
新入社員研修は、「ヤングプロフェッショナルプログラム」のファーストステップであり、「自律創造型人財」の礎を築く大事な研修なのです。
-新入社員研修は、経営戦略を実現するためのファーストステップでもあるのですね。
4年間で、会社の経営戦略を実現していく人財のベースを作っていく。そして、社員は自分がやりたいことが実現できるスキルが備わっていくのです。
苗場の地で新入社員と会社がつながる
-2024年の新入社員研修のスケジュールや具体的なプログラム内容を教えてください。
2024年の新入社員研修は、グループ会社16社より470名が参加し、新潟県の苗場で行われました。普段の仕事とは異なる非日常感・開放感が溢れる環境で、さまざまなプログラムが行われました。
JTBグループの新入社員研修は、13のテーマで構成されています。
- 社会人としての自覚と実行力
- JTBグループの歴史
- The JTB Way (JTBグループと社員のあり方を表わしたもの・すべての企業活動、社員の行動の支柱)
- 交流創造事業 (JTBならではのソリューションの提供により、地球を舞台にあらゆる交流を創造し、お客様の感動・共感を呼び起こすこと)
- 中期経営計画
- コンプライアンス
- 自律創造型人財の育成
- 事業戦略
- 事業基盤戦路
- ビジネスマナー
- 働き方・自己実現
- 働く環境・仕組
- 自律創造型人財の素養
前半は、歴史や企業と社員のあり方、経営計画など、会社の全体像を把握。その後、事業を深く知りながら、後半は配属後にすぐに役立つ・実務に近いテーマを設定しています。はじめに全体像を示し、より現場視点に近づけていくことで、理解がしやすくなっています。
研修は6日間で行われ、13のテーマを学ぶために、複数のプログラムが展開されました。
プログラム内容によって、新入社員全員が一同に集まって行うものと、1クラス40~60人程度に分けてクラス制で行うものに分類。
クラス分けをすることで、講師と新入社員、新入社員同士がコミュニケーションをとりやすくなります。また、クラスはグループ会社の垣根を取り払い、メンバーが混ざり合うようにすることで、シナジー効果が生まれやすくなります。
-プログラムの内容を理解してもらうために工夫していることはありますか?
ワークの要素をたくさん取り入れています。ディスカッションをしたり、新入社員が意見を発表したりする機会を多くしています。
講師から一方的に伝えるのではなく、新入社員も話を聞いて考え、アウトプットする。講師は、teachingではなくcoachingを意識し、「教えるのではなく、いかに引き出すか」を大切にする。
つまり、新入社員同士の気づきを大切に、「互学互習」の場づくりを醸成していきまくことで、結果、自律創造型人財に結びついていくのです。
-研修内容だけでなく、伝え方にも人財戦略が浸透しているのですね。
はい。また、新入社員研修ではバリュー手帳というものを配っています。この手帳は、日々の業務での学び・気づきをメモし、 成長を可視化し記録出来るツールです。
研修での学びや気付きを自由に書き留めることで、理解が深まっていく。そして、現場に配属された後も、この手帳に日々の学びや気付きを記載していくことで、自律創造型人財に至るまでの軌跡が綴られていくのです。
バリュー手帳は、新入社員と上司・指導社員間で、振り返りをする際のコミュニケーションツールにもなっています。
-研修からスムーズに現場配属が進むよう、工夫していることはありますか?
まず、新入社員が配属される前の4月上旬に、現場の既存社員(個所長や課長、指導社員、メンター社員等)に対して育成方針や研修プログラムの内容を共有し、会社全体で共通の育成意識を持てるようにしています。
研修中には、人事担当から新入社員に対して、研修内容を現場でアウトプットするよう度々伝えます。加えて、既存社員にも、新入社員のアウトプットの場を意識的に設けるよう情報を共有。実際に現場に着任後、新入社員の研修成果報告会等が開催され、お互いを知るとともに、どこまで新入社員研修で学んできて、どこからOJTで育てていくかが明確になっています。
このように、研修前後の流れを構築することで、現場の既存社員も新入社員研修の取り組みを理解し、配属後の受け入れがスムーズになります。
-今回の新入社員研修を通じて、どんな成果や変化を感じていますか?
研修終了後、アンケートを通じて、新入社員に配属前の気持ちを漢字一文字で表してもらいました。すると、多くの新入社員が「挑・楽・新」の漢字1文字を選びました。
新たな環境や仕事に積極的に挑戦し、それを前向きに楽しむという意気込みが表れています。研修を通じて、ポジティブな気持ちを醸成できたことを実感しています。
まとめ
JTBグループの新入社員研修は、2024年春に新潟県苗場で行われ、470名の新入社員が参加しました。本研修では、将来わたりイキイキと働き活躍できる「自律創造型人財」育成プログラムの一環である点が特徴です。企業の歴史やビジョン、経営戦略、ビジネスマナーなど多岐にわたり、新入社員が改めてキャリアビジョンを考え、会社とのギャップを埋める時間も設けております。 リアル研修とオンライン研修を組み合わせ、効率的かつ効果的な学びを提供、また、人事機能内で採用・運用、人事企画(制度)・人財開発が連携し、研修の設計から実施までを統合的にサポートしています。企業全体で育成方針を共有し、新入社員が自律創造型人財として成長できる環境を整えることで、組織全体のエンゲージメントを高め、持続的な成長を実現することを目指しています。このアプローチにより、新入社員の早期退職を防ぎ、長期的な人財育成が期待できます。
JTBでは、新入社員研修をはじめ、さまざまな企業研修のサポートをしています。変化が激しい時代のなかで、画一的ではなく多様性や柔軟性を重視し、企業と社員が共通の未来を描けるよう支援をしていきます。