人的資本経営の浸透に伴い、企業の「エンゲージメント経営」を支援するサービスも続々登場している。 その中で異彩を放っているのが、「交流」を加速させるJTBのエンゲージメント向上サービスだ。
ツーリズム業界のリーディングカンパニーであるJTBが、なぜ人事領域のサービスを? そう思った方も少なくないだろう。
この十年、JTBは旅行会社とは括れないほどその業態を広げ、今では企業課題のソリューション会社へと変貌を遂げている。
本稿では、同社のソリューション提供領域の一つである 「従業員エンゲージメント」をテーマに、エンゲージメント経営に詳しい人事コンサルタントの柴田彰氏と、JTBの古田島淳が対談。
同社が従業員エンゲージメントの領域で独自性を発揮している「謎」を解き明かす。
企業成長には従業員の貢献意欲が不可欠
-従業員エンゲージメント向上に取り組む企業が増えています。なぜ今、エンゲージメント経営が注目されているのでしょうか。
- 柴田
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従業員エンゲージメントの定義は、社員の自発的な貢献意欲です。
日本企業ではここ5年ほどで急激にこの概念が浸透してきました。
将来予測が困難な現代において企業がその価値を維持、向上させていくためには、企業と個人が共に成長し合う関係が不可欠という認識が広まったことが背景にあります。
コロナ禍も、エンゲージメント経営の重要さを浮き彫りにする転換点になりました。エンゲージメントを大幅に向上させた企業と低下させた企業に分かれたのです。
不要不急のビジネスが停滞を余儀なくされる状況下で、それぞれの企業が存在意義を問われてしまった。
これを機に自社のパーパスを自覚的にとらえて、社員と共有できた企業はエンゲージメントを伸ばすことに成功し、躓いた企業はエンゲージメントを落としてしまったわけです。
- 古田島
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まさに当社も、コロナ禍で旅行需要が激減したことが、自社の存在意義を問い直す機会になりました。
JTBは長い間、旅行会社と認知されてきましたが、当社が旅を通じて生み出してきた価値は、自然や文化との出会い、人と人とのつながりです。
そこで、当社の価値創造の源泉である「つなぐ・つなげる」の考え方にもとづく「交流創造事業」の輪郭を際立たせ、旅行はもちろん、ビジネスソリューションや地方創生、教育、デジタルなどといった幅広い領域で、交流を生み出すためのサービス展開を強化したのです。
- 柴田
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具体的にどんなサービスを強化したのでしょうか。
- 古田島
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強化したものの一つに、従業員エンゲージメント向上ソリューションがあります。
畑違いに見えるかもしれませんが、当社は長年、企業が成績優秀者などを対象に行う報奨(インセンティブ)旅行を扱ってきました。
報奨旅行は、対象者の設定や告知の仕方などを工夫することで、モチベーションを向上させることが可能です。
また、JTBコミュニケーションデザイン(旧・JTBモチベーションズ)というグループ企業でも、組織におけるモチベーション向上のあり方を研究し、企業向けに支援サービスを提供してきました。
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これらの事業で培った感動と共感、そしてモチベーションを育むノウハウ。
さらに、それを効果的に企業成長につなげるために蓄積してきた知見を、従業員エンゲージメントを向上させるソリューションとしてまとめあげ、サービス化しました。
- 柴田
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旅行や合宿など普段とは異なる環境に身を置くことで、議論が前向きになり、チームワークが強化されることは珍しくありません。
私自身、非日常体験のポジティブな効果を実感しているからこそ、体験設計のプロフェッショナルであるJTBがどんな人事ソリューションを提供しているのか、興味を惹かれます。
- 古田島
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当社が提供するソリューションはさまざまありますが、その一つに、野外体験型コンテンツがあります。
世界的ベストセラー『7つの習慣』で知られるフランクリン・コヴィー・ジャパン社と提携し、当社が共同開発した「7つの習慣®Outdoor」という研修です。
自然豊かなキャンプ場を舞台に、チームごとに設定されたゴールを目指して失敗も経験しながら、「7つの習慣」のエッセンスと自立、チームワークを体感するアクティビティです。
- 柴田
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すでに書籍としてまとまっている「7つの習慣」を、わざわざアウトドアで経験してもらうことにどんな効果があるのですか?
- 古田島
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「腹落ち」と「持続性」が生まれることです。
座学で学ぶだけではその場では理解できても、共感には至りません。
その点、体験で学んだことは腹落ちしますし、日常に戻っても人の心に残り、行動変容を促し続けます。
社員研修はもちろん、入社前にビジョンに共感してもらうことで優秀な人財(※)の獲得につなげたいと、内定者やインターンシップ向けにもたくさんの引き合いをいただいています。
JTBグループでは、“人材”は「企業や組織の成長を支える財産となる大切なリソース」であるという意思を込め、“人財”と表記している。
- 柴田
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なるほど。従業員エンゲージメントを上げる方法は大きく二つあって、一つはビジョンやパーパスの浸透です。
それを実現するには、従業員に深く理解し、腹落ちしてもらう必要がありますが、現実として日々の業務だけでは難しい面があります。
その点、JTBの取り組みは、エンプロイー・エクスペリエンス(従業員が組織の中で体験する経験価値)を向上させる道筋がうまく描かれていますね。
- 古田島
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JTBの強みは、まさに人の心を動かす「体験のデザイン」にあります。
体験を重ねていくとそれが経験となり、従業員の心が動くことで「EVP(Employee Value Proposition)」が高まり、組織への共感につながっていきます。
従業員エンゲージメントを高めるもう一つの方法とは?
- 柴田
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従業員に成長の実感を与えることです。
どんなに高尚なビジョンがあっても、目の前の仕事があまり意味のない作業ばかりでは、自分が成長できるとは思えません。
企業は無駄な作業を排除するとともに、従業員が仕事に価値を感じているかどうかをモニターしていく必要があるでしょう。
- 古田島
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実際、従業員意識調査を実施する企業は増えていますよね。ただ、どうせやるなら、調査自体の質を上げていくことも重要だと思います。
固定のプログラムを導入するだけで終わらせず、企業ごとに自社が重視していることを評価しやすい設問や、課題解決の方法を絞り込みやすくする設問を設定する。
当社ではそうしたカスタマイズが可能な「WILL CANVAS」という組織開発支援型HR-Techサーベイも提供しています。
- 柴田
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今お聞きしているだけでも、サービスの幅広さを感じさせられますね。
- 古田島
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そうかもしれません。職場旅行、周年パーティー、研修イベント、組織開発支援サービス。当社は多様なサービスを通じて、多角的に企業を支援してきました。
私たちに寄せられる相談の裏には、その企業の目指す姿や大切な思いが見えてきます。
時にはお客様自身も気づいていないニーズを可視化し、豊富なコンテンツの中から最適な打ち手を提案し、伴走させていただく。
そんな一気通貫の支援を提供できるのが当社の強みです。
キャリア自律が高まる社会で、企業に求められること
- 柴田
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私は以前から、永続できる企業の条件というテーマで、老舗企業を中心に多くの経営者にヒアリングを続けてきました。
長い歴史を経ても顧客や地域社会に愛され続ける企業に共通するのは、自社の理念やマーケットに過度に縛られることなく、時流を意識して再解釈や再定義をしてアップデートしていることがわかってきました。
旅行という主力事業で培った体験や共感のノウハウという存在意義を、異なる形で提供しようとするJTBの取り組みは、まさにこのパターンだと感じます。
報奨旅行やイベント支援などのサービスの目的をいったん抽象化してアップデートした結果、社員のみなさんから新しいサービスが生まれた点も同様です。
それができていること自体、従業員エンゲージメントが存在している証拠でもありますね。
- 古田島
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ありがとうございます。私たちがこうした事業を展開していることが不思議がられることもありますが、従業員エンゲージメントは、働く人と組織とのつながりそのものです。
つながりを強化することで組織の力を引き出すことは、交流創造の知見を持つJTBの強みを発揮できる領域と自負しています。
-この数年でVUCAと呼ばれる時代に入り、JTBに寄せられる組織課題や人財関連の課題も複雑かつ多様化していると思います。企業と従業員の関係はこの先どのように変わっていくとお考えですか?
- 柴田
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日本企業が直面する問題の一つに、働く人たちのキャリア自律が不十分なことがあります。
キャリア自律とは、自らの仕事の意義を見出し、現在や将来の社会のニーズや変化をとらえて目標を掲げ、主体的にキャリア開発していくことです。
今はどの企業でも通用するスキルを身に着けたいと考える人が多いのですが、その前にまず自分自身を振り返って、本当は何になりたいのかを問う欧米型のキャリア自律の意識が、間違いなく今後の日本人の就業観に影響してくるでしょう。
この先、若い世代のキャリア自律の意識が高まるほど、企業は従業員に対し何を提供できるか、従業員が自社で何を実現できるかを具体的に提示することが求められます。
それができない企業には、志を持たない人しか集まらず、競争力を失ってしまうでしょう。
- 古田島
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この先、テクノロジーの進化による社会変革が続く中で、キャリア観も変わっていくでしょうし、事業を劇的に転換していく企業も出てくると思います。
働き手からすると、自社の存在意義を見失いやすい時代。だからこそ、企業は明確な理念やビジョンを打ち出し、従業員に丁寧に伝えていくことがこれまで以上に求められるようになると思います。
それは一言で言えば「つながり」を創造することです。これからどんなにテクノロジーが発展しても、人的なつながりは普遍的な価値であり続けます。
当社が旅を通して培った人の心を動かす感動体験と共感のアプローチを活用し、働くすべての人がこの会社に入ってよかったと心から思える強い組織づくりを支援します。
また、つながる対象は組織の中だけではありません。当社は企業と顧客、あるいは企業と地域・社会がつながるお手伝いをしています。
当社には全国の自治体や、修学旅行や探究学習の支援で培った学校とのネットワークもあります。教育機関との関係は採用マーケットでも重要性を増しており、こうしたつながりを求める企業にも貢献できると考えています。
これからも多様なネットワークを通じてお客様の「つながり」を増やし、企業成長や組織の発展をサポートしてまいります。
執筆:森田悦子
撮影:津久井珠美
デザイン:田中貴美恵
編集:下元陽
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