生まれながらにしてデジタルネイティブ……そんな特徴を持つ初の世代を指す言葉が「Z世代」です。彼らは最新のデジタルテックを駆使し、新しい流行をいち早くキャッチしていく一方、昭和や平成初期のブームを新しい視点から捉え直しています。もちろん当時を知る世代にとっては「懐かしのブーム」。老若男女ともにリーチできる「レトロ」には、商機が多く含まれているのです。それにしても当時を知らないZ世代は、なぜ昭和・平成のレトロに魅了されるのでしょうか。
Z世代には超過去の話…昭和レトロブーム
1990年代後半から2010年代中頃までに生まれた人々を大雑把に括る「Z世代」という単語。物心がつき始めたころ、彼らの家庭にはすでに1人に1台以上のPCが備わっていたケースが多いことから「デジタルネイティブ」とも称されます。
同時にスマートフォンの進化とともに育ってきた世代でもあるため、「PCはあまり使わない」というケースも珍しくありません。またバブル以前の世代とは異なり、Z世代は環境問題や社会行動に対し鋭敏な感覚を持つ傾向にあります。
レトロブームの歴史は繰り返される
「Z世代が昭和レトロに関心を持っている」というトピックは、取り合わせの意外さから再三報道されますが、実はそれほど珍しいことではありません。過去数十年に渡り同様の現象は繰り返されています。
たとえば観光。埼玉県川越市が展開する「小江戸川越」のキャンペーンは、数十年に渡る根強い人気を維持し続けています。またエンターテインメント業界でも2000年代の中頃には、ピンク・レディーや松田聖子といった大スターから、人知れず消えたB級アイドルまで、各レコード会社が昭和流行歌手の音源をこぞってCDの再発売をしていた時期もありました。
そうした商品サービスを利用する層の中には「温故知新に知的好奇心を刺激される」という若い世代が必ず含まれます。特に東京などの大都市で生まれ育った人々は「インターネットを開けば自動的に入ってくる最新情報」より「自分自身で検索しなければ得られない情報」にロマンを感じる傾向が強いとされています。
Z世代が好む昭和レトロ
ではZ世代の好む昭和レトロに見られる、いくつかの特徴を挙げてみましょう。
まず戦後から高度経済成長期の国内にあふれていたデザインは、建築から広告のフォントひとつに至るまで、Z世代の目に新鮮な驚きを与えます。彼らをメインターゲット層と捉える「西武園ゆうえんち」は2021年、昭和レトロをテーマにリニューアルオープンを果たしました。Z世代であると同時に、Web2.0世代でもある彼らはSNSを通じ、昭和レトロのイメージをスピーディに拡散します。遊園地側の手法は繰り返されるレトロブームの範疇内ですが、Z世代の関心を即座に捉える「レトロ映え」の威力は侮れません。
また先述のように、Z世代はSDGsや食の健康に、自然な関心を寄せています。それゆえ、昭和の喫茶店で提供されていた「クリームソーダ」や「ナポリタン」のようなメニューに、新鮮な驚きを覚えるようです。
海外で評価されたのはソウルやジャズのエッセンスを消化した70年代後半~80年代の和製ポップス。「シティポップ」と命名された楽曲群は、世界中で時間差なく利用される音楽ストリーミングサービスを通じ逆輸入されています。動画配信を含む同様のサービスは、過去の文化遺産と「最新流行だけがすべてではない」という価値観をZ世代へ自然に伝えているのです。
いまや平成もレトロ
レトロの歴史は繰り返されるものですが、つい数年前に終わりを迎えた「平成」でさえレトロと捉えるのは、Z世代ならではの特徴と言えるかもしれません。極端なファッションと破天荒なライフスタイルで良識派を震撼させたのは「平成ギャル」。その象徴である「ルーズソックス」は、Z世代のファッションアイテムとして人気を得ています。
Z世代は、進化し続けるスマートフォンカメラの高精度画像に、日々の思い出を刻んでもいます。そんな彼らは、平成初期に大流行した使い捨てカメラの粗い画像に新鮮な魅力を感じるのだとか。
さらにZ世代は音楽ストリーミングサービスなどを通じ、平成の流行歌に親しんでいます。「懐メロ」の定義はいま、昭和の歌謡曲から平成のJ-POPへ移行中。またSNSを通じ、欧米だけでなく韓国や中国のレトロ文化へスムーズにアクセスしているのもZ世代の特徴のひとつです。
検索ワードから見る…、Z世代がレトロに求めるものとは?
インターネット上の検索機能を活用し、情報収集に努めるのはZ世代の特徴です。では、いまレトロにまつわる検索には、どのようなキーワードが浮上しているのでしょうか。鹿児島市に本社を持つイベント企画制作会社・株式会社ミエルカが、2020年5月から約2年間の検索動向を集計したデータから推考してみました。
まずレトロにまつわる検索ワードで目立つのは「レトロ ファッション」。ワンピース、着物/浴衣、そしてスニーカーなど、ファッションに紐づく複合ワードも多く、レトロスタイルに関心を示す人々が一定数存在することがわかります。
また「レトロ ゲーム」など、アイテムにまつわる検索需要も高め。自販機、雑貨、カメラ、食器、家具、車といった複合ワードが並ぶほか、印刷や数字フォント、そして柄など、よりディープな情報を探ろうとする複合ワードも散見されます。
さらに「昭和レトロ」との複合検索ワードはどのような傾向かを見ますと、やはり服やコーデなど、ファッションに紐づく複合ワードは健在。腕時計や人形、ゲーム機といったアイテム、そしてイラストやポスターといったデザインへの関心は高い傾向にあります。
また「昭和レトロ商品博物館」、「昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」といったスポット検索ワードや「昭和レトロカー万博2022」といったイベント検索ワードも混入しており、昭和カルチャーの人気の高さを伺い知ることができます。
Z世代気質に見るレトロカルチャーとの親和性
新成年から、まもなく30代へ突入する年代までを含むZ世代。彼らのマインドに共通する特徴はあるのでしょうか。多様性を重んじる現代においては一概には語れませんが、大雑把に括ってみました。
- 高度経済成長期~バブル期のようにモーレツで「24時間戦う」といったライフスタイルを、選択しない。
- クラブのVIPルームを借り切って大騒ぎするより、気の合う者同士が集うホームパーティを好む傾向がある。
- インターネット上でワールドワイドなトレンド情報へたやすくアクセスする一方、ローテクノロジーだった時代へ目を向け、個性的なアイデアや温もりあるコミュニケーションに憧れを示す。
- 環境問題に関心があり、大量生産→大量消費のサイクルに、たやすく同調しないアイデアを好む。
おぼろげながらも見えてくるZ世代気質。「その特徴と親和性が高いレトロカルチャーとは?」「レトロアイテムを活用した、斬新なサービスとは?」過去を振り返り、思いを馳せていくことで、ビジネスの新たなアイデアが湧いてくるかもしれません。
また現在の50~60代がかつて「新人類」と呼ばれたように、Z世代の生きる令和がレトロとなる時代もいずれはやってきます。「繰り返されるノスタルジアと温故知新の根幹にあるのは?」「昭和や平成のみならず、明治・大正時代から生き残り、愛され続ける『レトロ』の正体とは」そんな風に考えを進めていくと新たな視野が広がるかもしれません。
まとめ
今回、初代デジタルネイティブとなるZ世代におけるレトロブームの深層について考察していきました。レトロブームは何度も繰り返されてきたものですが、昨今のブームはデジタル要素もプラスされ、「いままでにはないもの」のように見えるでしょう。
ただレトロブームは若者には新しく、当時を知る人には懐かしいと、全世代に受け入れられる可能性のあるもの。いま起きている流行を分析すると、より幅広い客層へのリーチを考える際のヒントになりえます。
また過去のヒットに若年層の感覚を取り込むと、次のブームを先取りすることも夢ではないかもしれません。