従業員満足度とは、従業員が自身の職務や職場環境、人間関係などに対して、どの程度満足しているかを表す指標です。多くの企業が注目しており、従業員満足度を高めることができれば、企業には大きなメリットがあります。
本記事では、従業員満足度の定義や高めると得られるメリット、高める方法について紹介します。ぜひご覧ください。

従業員満足度(ES)とは?
従業員満足度は、従業員が職務や職場環境、人間関係、人事制度、福利厚生、キャリア成長の機会などの満足度を示す指標です。英語では、「Employee Satisfaction」と呼ばれており、頭文字を取って「ES」と呼ぶこともあります。従業員満足度が高い企業ほど、従業員のモチベーションも高くなる傾向があります。
従業員満足度が注目される背景
従業員満足度が多くの企業から注目されているのは、労働環境の変化が起因していると考えられるため、ここでその背景を紹介します。
労働人口が減少している
日本は、少子高齢化による人口減少が続いています。厚生労働省では、2070年には日本の総人口が9,000万人を割り込むと推計しています。労働人口の減少にもつながるため、人材の確保も難しくなるでしょう。企業では、従業員満足度を向上させ、確保した人材の定着を目指すことが求められます。
人材が流動化している(生産性を向上させる必要がある)
現代は、働き方の多様化もあり、従業員が就業先の企業を自身で選択できる時代です。かつてのような終身雇用が前提ではなくなり、人材が流動化している現代では、生産性の向上が重要な課題となります。従業員満足度を意識することは、従業員一人ひとりの生産性向上につながります。
社員を定着させやすくなる
従業員満足度を高めることで、従業員の転職への意識を低減できる点も注目されています。従業員満足度の向上は、現在の仕事にやりがいを持たせることにつながるため、離職を防止する効果が期待できます。定着率の高い企業であると発信できれば、求職者にも良い印象を与えるため、採用活動にも良い影響をもたらします。
従業員満足度を高めると得られる3つのメリット
従業員満足度を高めることは、従業員だけではなく企業にも大きなメリットがあります。ここで代表的な3つのメリットを紹介します。
01生産性の向上
従業員満足度が高くなると、従業員が高いモチベーションで積極的に仕事に取り組めるようになるため、生産性が向上します。また、モチベーションが高い状態が維持できれば、イノベーションや大きな成果につながることもあるかもしれません。従業員満足度が高まり生産性が向上することで、企業にとってさまざまなメリットをもたらします。
02顧客満足度の向上
従業員満足度が高まれば、顧客満足度も向上します。自社への満足度が高い従業員は、自然と自社の商品やサービスに愛着が湧き、それらを分析するようになります。商品やサービスについて詳しくなり、顧客に対しても多角的な説明ができるようになります。結果として、顧客ニーズに即した商品やサービスを提案できるようになり、顧客満足度が向上します。
03人材流出の阻止
従業員満足度が高ければ、従業員の帰属意識が高まります。居心地が良くて、やりがいを感じることができれば、よほどのことがない限り退職を考えることはありません。また、このような従業員はモチベーションが高いため、生産性も高いのが特徴です。生産性が高い従業員が長く働くことで、業績向上や認知度向上につながります。
従業員満足度を構成する7つの要素
従業員満足度の向上を目指すためには、従業員満足度の具体的な要素の理解が必要です。ここからは、従業員満足度の7つの要素について紹介します。

企業理念への共感
企業理念とは、「価値観」や「行動方針」など、企業が大切にしている根本的な考え方です。企業が掲げている理念や方針が、従業員の考え方や価値観と合致していると、余計なストレスが生まれず、企業への誇りや期待を持つことにつながります。企業への信頼感が強くなれば、自然と理念や方針に沿った行動や選択をするようになります。
自分の仕事が社会や企業に与える影響
自分の仕事が社会や企業に貢献できているかどうかの実感は、従業員満足度に影響します。あまり貢献できていない、または自分のスキルを十分に活かせていないと感じる場合は、従業員の満足度は低くなってしまいます。
業務によっては貢献度を感じにくいケースもありますが、社会や企業への影響や貢献度を実感してもらうためには、同僚や上司などと互いに評価し合うことが必要です。
マネジメントへの納得
上司と部下の関係性や自身の評価に納得しているかどうかも、従業員満足度を構成する大事な要素です。上司と部下が互いに信頼し合い、評価に納得できている場合、従業員満足度は高くなります。一方、上司との関係性が悪く正当な評価がなされていない場合、従業員満足度は低くなりやすく、離職率の上昇も心配されます。
従業員がマネジメントに納得できていれば、部署内のコミュニケーションも良好になります。仕事の成果につながりやすいほか、モチベーションの向上によって高い生産性を維持できるため、企業が重要視すべき要素です。
社内での人間関係
従業員満足度は、社内における人間関係の要素も含まれます。社内の人間関係に問題があると、従業員の満足度が低下し、離職につながる可能性があるため、注意が必要です。一方で、上司や同僚、部下などとの関係が良好であれば、従業員の満足度は高まり、コミュニケーションも活性化します。
人間関係が良好な状態であれば、アイデアの発信や意見の交換が活発になり、新たなサービスや商品の開発にもつながります。できるだけ円滑な人間関係が築けるような環境づくりも企業にとって重要な課題です。
職場の環境
職場環境も従業員満足度に大きく影響します。満足度を高める職場環境とは、従業員が自分に適した働き方や業務量で仕事ができる環境です。
例えば、近年多くの企業で導入が推進されている働き方にテレワークがあります。自宅でもオフィスと同様に働けたり、オンとオフの切り替えが適切にできるというメリットがあり、満足度の向上につながる働き方のひとつです。
また、近年はワークライフバランスが重視され、快適な職場環境や多様な働き方を重視する人が増えています。在宅勤務や短時間勤務、有給取得のしやすさなどは、快適な職場環境の要素です。
給与・福利厚生
給与が「成果に応じている」「役職に合っている」「同業他社と比較して妥当」と従業員が感じられると、従業員満足度が高くなる傾向です。反対に、仕事や役職、成果などに適していない給与であれば、従業員満足度は下がります。
また、福利厚生では、「住宅手当や食事手当」や「スキルアップ支援」「慶弔見舞金」「特別休暇の内容の充実度」などが従業員満足度に影響します。従業員満足度を上げるためには、これらの福利厚生を充実させることにより、従業員の生活向上が必要です。
キャリア形成
従業員がキャリア形成をできる企業は、従業員満足度が高い傾向です。研修制度などの企業の後押しや、スキルが磨ける仕事で適切な評価を得られれば、従業員満足度は高くなります。反対に、やりがいのない仕事を与えられ、スキルアップが期待できない状況では、満足度を高めることはできません。
1人ひとりの従業員が抱く、理想的なキャリア形成を支援する環境を整えることにより、従業員満足度は高まり、従業員の定着率向上も見込めます。
従業員満足度を高める方法
従業員満足度を高めるために何をすべきか、ここでは、具体的な方法を5つ紹介します。
企業理念やビジョンを共有する
従業員満足度を高めるためには、従業員と企業の理念やビジョンを共有し、共感を得ることが必要です。企業理念は、会社の価値観や行動指針を示し、ビジョンは、企業が提供する価値や社会貢献の全体的な方向性を示します。企業理念とビジョンを共有し共感を得るためには、全従業員に継続的に周知し、繰り返し伝えることが重要です。
希望や適性に見合った配置や異動を行う
従業員の希望や適性に合った部署・事業所に人事異動することも、満足度を高める有効な手段です。従業員が自分の適性や能力を活かせる仕事をしていると感じれば、従業員満足度は向上します。企業は、従業員それぞれの希望をリサーチしたり、それを考慮したりして、性格や能力に応じた適切な配置や異動を行うことが大切です。
職場環境を整備・改善する
職場環境の整備や改善は、従業員満足度の向上に直結する施策です。たとえば、業務効率化によって残業時間が短縮されると、働きやすさが向上し、従業員満足度が高まります。残業時間の短縮は、生産性向上の証であり、企業にもプラスの効果をもたらします。さらに、良い職場環境であれば、定着率向上や採用力強化も可能です。
福利厚生を強化する
福利厚生の強化は、先に述べたように従業員の生活の向上が前提です。例えば、有給休暇を取りやすくしたり、法定外の休暇を設けたりすることで、従業員の生活が向上し満足度が高まります。他社にはない充実した福利厚生は、人材の長期定着に効果的です。競合他社をリサーチして、福利厚生で差別化を図れば、良い人材を獲得できる可能性も高まります。
評価制度を改善する
適正な人事評価制度が整っていれば、従業員は自分の評価に納得しやすくなり、満足度も向上します。評価者の主観で評価が偏ることがないよう、明確な基準に基づく、公平で客観的な人事評価制度が重要です。複数の評価者による評価で偏りを是正したり、評価者教育を実施したりする必要もあります。
従業員満足度調査を活かす方法
従業員満足度調査は、従業員が企業や仕事に対しての満足度を測定する調査です。その調査を従業員満足度向上に活かす方法を紹介します。
01調査目的を明確にする
従業員満足度調査の対象は従業員であるため、従業員に調査目的を明確に伝えることが重要です。経営陣が主導し、従業員満足度調査の目的を明示することで、従業員は安心して調査に回答できます。具体的には、解決すべき課題を明示して、調査がその解決につながることを従業員に伝えることです。
02設問を策定する
設問内容が、調査の目的や課題解決に合っていなければなりません。また、答えやすさや分かりやすさも確認することが大事です。回答しやすいように、専門用語が多すぎないか、堅苦しい表現になっていないかを留意する必要があります。
03調査を実施する
準備が整ったら、実際に従業員満足度調査を実行する段階です。用紙記入やメール回答、オンラインフォーム回答などさまざまな方法があるため、自社に適した方法を選びます。
ただし、メールやオンラインフォームを使う際は、情報流出に気をつけなければなりません。リモートワークの従業員も含め、デバイスのセキュリティを確認するとともに、メールの誤送信が起きないよう注意する必要があります。
04結果を分析する
従業員満足度調査は、結果を集計し分析しなければ満足度向上に活かすことはできません。集計や分析方法は、単純集計やクロス集計、構造分析などがあるため、こうした方法のなかから自社に適した方法を選んで集計し分析します。場合によっては、それらを適切に組み合わせて、本質的な課題やその原因を見極めることが必要です。
05対策を立案する
従業員満足度調査の結果を集計して分析することで、解決すべき課題が可視化されます。企業は浮き彫りになった課題に対し、解決策を検討しなければなりません。例えば、労働時間や給与の課題が見つかったら、「労働時間や給与の見直し」を施策として実行します。また、従業員の将来が課題であれば、「キャリアビジョンの提示」や「福利厚生の見直し」などを行います。
従業員満足度を向上させた事例
従業員満足度を向上させるためには、成功事例を参考にするのが近道です。ここでは、3つの事例を紹介します。
事例01社員を対象にワーケーション体験ツアーを実施した事例
株式会社日本経済新聞社様では、自社の新サービスを従業員に浸透させることが課題でした。そこで、取り組みとして、従業員向けにワーケーション体験ツアーを実施しています。成果としては、参加した従業員から、多くのワーケーション体験ツアーに対する肯定的な感想が寄せられました。また、通常ならコミュニケーションがない従業員との交流も生まれています。
事例02周年記念事業 ~全従業員への感謝の気持ちを込めた「コトギフト」~
大手電子機器メーカー様では、周年記念事業として、全従業員を対象に感謝の気持ちを込めた「コトギフト」を贈りました。コトギフトは、モノではなくコトを贈る新しいスタイルのギフトです。
周年事業では、従業員の1人ひとりに感謝を伝えたかったが、全従業員が一堂に会すること難しいため、新しい形で感謝を伝えることが課題でした。これを解決する方法として取り組んだのが、オリジナルのコトギフトのカタログを作成です。結果として、従業員のエンゲージメント向上に寄与しています。
事例03面談で社員の本音が聞き出せる!?“意識調査”実施体験
株式会社ワークマン様では、意識調査の実施を通じて、従業員の本音を聞き出す試みを行い、成果を上げました。
意識調査での課題は、従来の社員アンケートでは、社員の本音がわからなかったことです。また、アンケートは実施しても、その後の分析まで手が回りませんでした。
そこで、組織変革支援システムである「WILL CANVAS」を導入し、社内アンケートを一新しました。頻度も、年1回から3ヵ月に1回に変更しています。その結果、社員の悩み事や仕事へのモチベーションなど、社員の本音を引き出すことができるようになりました。社員のモチベーションの向上だけでなく、コミュニケーションの活性化にもつながっています。
まとめ
従業員満足度は、ES(Employee Satisfaction)とも呼ばれ、従業員が職務や職場環境、人間関係などにどの程度満足しているかを示す指標です。多くの企業が注目している指標であり、従業員満足度の向上は、生産性の向上や顧客満足度の向上など企業にも大きなメリットがあります。また、労働人口が減少しているなか、人材の流出を防ぐこともできます。
さらに、現代は「従業員が企業を選ぶ時代」へと変化しました。従業員満足度を高めることは、企業に不可欠であり注力しなければなりません。
こうした状況の中で、注目を集めているのが、人的資本経営の観点から考えられる「EVP」という概念です。EVP(Employee Value Proposition)とは、企業が従業員に対して提供する価値で、その価値は、従業員が共感できるものである必要があります。いま企業はEVPを的確にバランスよく提供することが求められています。EVP経営の詳しい内容は、こちらで詳しく紹介しています。