毎年1回、ネバダ州ラスベガスで開催される、家電やデジタル技術の見本市である「CES」。CESは「Consumer Electronics Show」の略称で、全米民生技術協会(CTA)が主催しています。昨年はオンラインでの開催でしたが、今年はラスベガスにリアル会場が設けられ、2,300社の企業が出展しました。そこで、JTBでは2月にセミナーを開催。2人の登壇者をお迎えして、今年のCESの様子をオンラインとリアルの両方の視点で紹介しました。本記事では、そのセミナーの様子をダイジェストでお届けします。
INDEX
開催概要
- 開催日
- 2022年2月2日(水)
- 開催方式
- オンライン開催
- プログラム
-
- 第一部:これまでのCESの変遷ーテクノロジートレンド
~CESに見るテクノロジートレンドの変化と新潮流~ - 第二部:今年のCESーCES2022トピックス
~CES2022クロストーク~ - 質疑応答
- 第一部:これまでのCESの変遷ーテクノロジートレンド
登壇者紹介
日本大学生産工学部 数理情報工学科講師(非常勤)・自動車工学リサーチセンター客員研究員
日本大学生産工学部 数理情報工学科講師(非常勤)・自動車工学リサーチセンター客員研究員
カリフォルニア大学アーバイン校博士課程修了(Ph.D.) ソニー(株)を経て現職。コンピュータ・アーキテクチャを専攻し、その応用領域として通信、AI、自動運転等を扱う。
CESをはじめ、MWC/ITS世界会議などJTBが主催する、テクノロジー関連の海外展示会・国際会議視察プログラムにて長年同行専門家を務める。大学で教鞭を取ることから「語り口も非常に分かりやすい」とプログラム参加者には固定ファンがついている。
近著に「テクノロジーロードマップ2021-2030全産業編」(日経BP:19項目担当)がある。
J-Startupサポート企業、Art Thinking Improbable Workshop Executive Producer 、内閣府日本オープンイノベーション大賞専門委員会委員、経産省第4次産業革命クリエイティブ研究会委員、武蔵野美術大学 大学院 クリエイティブイノベーション学科研究室 非常勤講師。
日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。2020年には米国ロサンゼルスにHEART CATCH LAを設立し、米国でのプロジェクトも進めている。
第一部:これまでのCESの変遷ーテクノロジートレンド~CESに見るテクノロジートレンドの変化と新潮流~
第一部では、20年以上にわたってCESをウォッチしてきた杉沼氏が、その変遷について話してくださいました。ここではその一部をまとめます。
変遷と年代別のトレンド
杉沼氏によると、CESは1967年にスタートし、50年以上の歴史があるそうです。現在は年1回の開催ですが、1970年代から90年代あたりにかけて、年2回開催の時代がありました。当時は、夏と冬に向けた家電商品を見せるための見本市としての開催で、購買担当者から注文を取ることが目的でした。それが、途中からテックのイベントに変化。ビル・ゲイツの基調講演をオープニングに据えるなど、PCを重視したマーケティングイベントに変わりました。
また、2000年代からは自動車業界にアプローチして、車を展示するように。2010年以降には、多くの自動車メーカーが自動運転などの先端技術をアピールし始めました。実は、2008年にはすでに自動運転の話は基調講演の中でも話されていたようで、CESの基調講演には技術のタネが散りばめられているそうです。つまり、「CESはある意味プロデューサーとして業界のトレンドをつくっている」と杉沼氏は言います。
CESは車の次にロボットやドローンを流行らせようと試み、その次はクルーズ産業や航空産業といった旅行業界に目を向け、他にヘルスケアやフード、今年から宇宙分野にも力を入れ始めました。何より、CESはスタートアップ企業の技術やサービスのお披露目の場として理解されつつあるようです。
第二部:今年のCESーCES2022トピックス~CES2022クロストーク~
第二部は、杉沼氏と西村氏の対談形式でスタート。杉沼氏はCESへはオンライン参加、西村氏はリアル参加の視点で各企業の講演や出展内容についてお話しされました。
CESでは、企業による出展だけでなく基調講演にも力を入れており、今年はサムスン電子、ゼネラルモーターズ、アボットの3社が登壇。本記事では、中でもゼネラルモーターズの講演内容についてお2人の話をもとに紹介します。
ゼネラルモーターズの基調講演
ゼネラルモーターズの講演では、CEOのメアリー・バーラ氏が登壇。電動商用車の部門である「BrightDrop(ブライトドロップ)」で開発した電動アシストカートや、宅配業界向けEVトラックで流通業界を一新する、と発言。電動アシストカートは自動化させるようで、「オートメーカーからプラットフォームイノベーターになる」という宣言が印象的だったそうです。
CESで基調講演の他に注目したいのが、各社企業による出展です。セミナーでは、杉沼氏と西村氏が気になった分野や企業の出展内容について、各々話してくれました。その一部をご紹介します。
宇宙:Sierra Nevada
Sierra Nevada(シエラネバダ)は、政府や民間企業に宇宙関連のソリューションを提供している企業です。世界40ヶ国に拠点を持ち、JAXAともパートナーシップを提携。CESでは、国際宇宙ステーション(ISS)へ物資を補給するための機体「Dream Chaser(ドリーム・チェイサー)」を展示しました。
また、同社は宇宙ステーションで生活するための居住空間「LIFE HABITAT(ライフ・ハビタット)」も紹介。乗組員の輸送も可能で、宇宙ビジネスを推進する企業の新たなリモートオフィスとしても活用できるのだとか。
フードテック:YO-KAI EXPRESS
YO-KAI EXPRESSは、アメリカで設立されたスタートアップです。社名の「YO-KAI」は「妖怪」からネーミングされており、ラーメンの自動販売機を手がけています。実際にロボットが調理をする点がポイントで、調理速度も約90秒とスピーディー。駅や空港、パーキングエリアなどでの導入を進めているようです。西村氏は、豊富なメニューからとんこつラーメンを選択して食べたそうで、「温かくておいしかった」と話していました。
スタートアップ
西村氏によると、CESの主催である全米民生技術協会(CTA)は「コロナを経てデジタル化への新しい生活ニーズが出てきている中で、そのニーズを埋めるのがスタートアップである」という趣旨のコメントをしたそうです。実際に、グローバルの投資家によるスタートアップへの出資は、2020年から2021年にかけて大幅に増えているとか。
そんな期待が高まっているスタートアップ企業を集めた展示会場が、「EUREKA PARK(ユーレカ・パーク)」です。CESの看板となっているEUREKA PARKの出展企業の一部をご紹介します。
01Engineered Arts
Engineered Artsは、ヒト型ロボットの設計や製造をしているイギリスの会社です。CESでは今回、ヒューマノイドロボット「Ameca」を展示。人間のように様々な表情を細やかに再現できる点が特徴です。AIやOSを搭載しており、ロボット技術の発展のためのデータ収集を目的に開発されました。
02AUUM
フランスでは、政府が「フレンチテック」と掲げてスタートアップ支援を盛んに行っており、多くのスタートアップが生まれているようです。そんなフレンチテックの中で西村氏が注目したのは、AUUMの食洗機。洗剤なしで10秒でコップを洗浄でき、デザイン性が高い点がポイントです。オフィスやカフェテリアなどに設置すれば、紙やプラカップを使わずに済み、環境への配慮になります。
今後のトレンド
登壇者のお二人曰く、今回フードテックというカテゴリーをご紹介したように、今後は様々な分野で新たな「テック」が登場するのではないか、とのこと。ただ、メンタルテックなどのようにまだ技術が未発達の分野もあるので、鵜呑みにし過ぎないことが大切だと話していました。
まとめ
本記事でご紹介した内容はごく一部で、セミナーでは他にも空飛ぶ車やスマート農業、電動化の分野について語っていたり、様々な企業が紹介されています。また、第二部は杉沼氏と西村氏が番組のような軽やかなかけ合いで現地の様子なども話しています。質疑応答のコーナーもあるので、もっと知りたい、と思った方はぜひ動画もご覧ください。
セミナーの最後には、JTBによる海外展示会視察や海外の最新ビジネス・企業の視察のサポートの他、海外事業開発のためのスキルアッププログラムなどのご紹介もしています。そちらも合わせて見ていただけたら幸いです。