最先端のテクノロジーやサービスが次々と生み出されるシリコンバレー。それらの源となるイノベーションは、どのようにして創出されているのでしょうか。JTBでは2021年12月に、価値創造の本質に迫ったWEBセミナーを開催。講師として、独立研究開発機関Vision Del Mar※を設立、人工知能の応用システムを開発しながら、通訳としても活躍されている井坂暁氏をお迎えしました。今回は本セミナーの開催レポートをお届けします。
AIとシステム科学で公益のテクノロジー解決を造るLLC
INDEX
開催概要
- 開催日
- 2021年12月8日(水) 11:00~12:00
- 開催方式
- オンライン開催
- プログラム
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- 主催者ご挨拶
- 講演/Q&A(サンフランシスコより配信)
「シリコンバレーに学ぶ、価値創造のヒント ~イノベーション創出・DXの最新事例から考える~」 - オンラインセミナー/オンラインイベント/オンラインツアー/オンライン展示会のご紹介
- CESオンラインプログラムご紹介(ラスベガスより配信)
講演者紹介
埼玉県所沢市出身。現在カリフォルニア州サンノゼ市在住。
1978年(昭和53年)法政大学付属第一高校を卒業後、法政大学には進まず単身渡米。1989年(平成元年)、UC San Diego カリフォルニア大学サンディエゴ校にて制御工学と人工知能の研究で博士号取得。その後シリコンバレーに移り、大手企業やスタートアップにてIT関連の研究開発や新規事業に15年間取り組む。
2004年(平成16年)コンサルティング会社を設立し、企業の研究開発や技術調査などを支援する。2010年(平成22年)からシリコンバレーを訪問する日本人のために技術通訳や講演業務を始める。
2019年(令和元年)大阪にベンチャー企業を設立し、日本のサイバーセキュリティ関連のイノベーション推進に取り組んでいる。
著書に「The Principles of Mental Care」(英語)、「音声認識を使った英会話の学習法:3つの秘訣」(日本語)がある。
2001年よりJalpak International Oceania、ニュージーランド・クライストチャーチ支店に勤務。2008年 STWorldのJalpak New Zealand売却によりSTWorldに転籍。2011年 America Travel Factory LLC へ転籍(STWorld USA とJTB USAの合弁会社) ロサンゼルスへ移住。General Manager として、経営に携わる。2019年 JTB USA Incへ転職。サンフランシスコ支店長として、現在に至る。
イノベーション創出のヒントを紐解く
シリコンバレーの大手企業とスタートアップで研究や開発に携わってきた井坂氏が、「シリコンバレーに学ぶ、価値創造のヒント」と題して、アメリカからLIVE配信による講演を行いました。よく知られているようで、実はあまり知られていない「シリコンバレーの表と裏」から、イノベーション創出のヒントを紐解きます。
シリコンバレーについて
「シリコンバレー」の正式な地名はサンタクララバレーといいます。コンピューターに使われる半導体の原材料であるシリコンが、通称の由来です。
第2次世界大戦後にこの場所で軍事・宇宙航空産業が盛んになり、最先端技術が開発・導入が進みました。70年代には半導体製造やパソコン、ソフトウェアの会社などが登場。 1990年~2000年代はネットワークの時代、2010年以降はモバイルアプリ、クラウド、AIの会社が台頭し、近年は自動運転を中心とした自動車産業の研究所も設立されています。 国立の研究所、スタンフォード大学やカルフォルニア大学バークレー校といった頭脳が集まる場所であり、世界のイノベーションの震源地といえるでしょう。
シリコンバレーの実態
しかしシリコンバレーの実態は、表に見えている部分とは異なります。移民の流入、人口増加、地価高騰、交通渋滞、貧富の格差、治安悪化といった問題を抱えています。
特に大きな社会問題となっているのが、ホームレスの増加です。地価高騰により家の値段が上がり、家が買えない、借りられない人々が、昼間は仕事、夜はテント生活をしています。限られたハイテク企業の仕事を奪い合う熾烈な競争社会、これがシリコンバレーの現状です。
イノベーションとは何か
さまざまな問題を抱えながらも、シリコンバレーがイノベーション創出の中心であることは変わりません。まずは、そもそもイノベーションとは何を指すのかを考えてみましょう。
イノベーションの意味
「イノベーション」を辞書で引くと、「物事の新結合、新機軸、新しい切り口、新しい捉え方、新しい活用法を創造する行為」とあります。しかし実際には、イノベーションは辞書で理解できるようなものではありません。
そこで「これぞイノベーション」というビデオを紹介します。
点字ブロックの開発者・三宅精一氏の誕生日にGoogleがアップしたビデオ。 三宅氏は、目の不自由な友人のために、私財を投じて点字ブロックの開発を行いました。点状と棒状のブロックにより「危険」と「安全」を認識できる仕組みは、今や世界中に普及しています。
三宅さんは、「友人が道路や駅で苦労している」という問題を定義して解決手段を考え、点字ブロックを開発しました。これがイノベーションです。
テクノロジーを活用したサービスの最新事例
ここで、シリコンバレーにおけるイノベーションの事例を2つ紹介します。
体験レポート01lululemonのスマートミラー
スマートミラーは、フィットネス・ヨガウエアブランドのlululemon(ルルレモン)が販売している室内型のヘルスケア商品。タブレット画面のメニューからエクササイズを選択し、鏡に表示されるインストラクターと一緒に運動ができます。写真は、スマートミラーの実演を行っているlululemonの店舗を訪ねて、実際にデバイスを操作し、エクササイズを体験しているところです。
体験レポート02Starship Technologiesの無人宅配ロボット
Starship Technologiesは、歩道を自動で車輪走行する配達ロボットを開発。シリコンバレーでは既に実用化されています。写真は、カリフォルニア州サンタクララのマウンテンビューにて、無人宅配ロボットによるランチのデリバリーを体験した様子です。
シリコンバレーがイノベーションを生むメカニズム
なぜ、シリコンバレーでは数多くのイノベーションが創出されてきたのでしょうか。そのカギはシリコンバレーで培われた思考や概念にあります。
シリコンバレー流の考え方
シリコンバレーにおける成功者といえば、アップルの創立者スティーブ・ジョブス。彼は「社員の失敗はよいことだ」という名言を残しています。 「失敗=目的を達せられない」という悪い意味で使われるのが一般的思考です。例えば、就職に失敗した、事業に失敗したといったケースです。 しかし科学的思考においては、仮説が立証できないことを失敗と捉えます。
科学の世界では、立証できなかったら仮説を立て直します。「検証→修正→新たな仮説を立てる」というプロセスを繰り返すことで、さらなる発見があり、前に進んでいきます。 そこからさらに踏み込んで、「仮説・検証・修正のサイクルを速く繰り返せば早く目的が達成できる」というのがシリコンバレー的思考です。
すべては「気づき」と「共感」から始まる
ただし、仮説を立てるためには問題の定義が必要です。 この「問題」について、経営学者のピーター・ドラッカーは、「Focus on opportunities, not problems=問題ではなく機会に焦点を合わせよ」 と述べています。ここでいう機会とは、問題にこだわる前に気づく、共感することを意味しています。
「イノベーション=問題解決」において最初に必要なのは、気づいて共感することです。その気づきから問題を定義して、手段を考え、人に見せられるようなプロトタイプ(デモ)をつくる。それを実際に使ってもらって検証し、できなかった部分について共感と問題を定義し直す。その繰り返しを、シリコンバレーでは「デザイン思考」と呼んでいます。
失敗こそがイノベーション創出のカギ
「Fail Fast, Fail Often=頻繁に早く失敗せよ」という言葉があります。一部の優秀な人たちだけではなく、そして一度きりではなく、イノベーションを創出し続けるために必要なのは失敗することです。
例えば開発の現場では、失敗してもいいように小さな細切れのプロジェクトを何回も立ち上げて、その中でできたものをお客様に届けていきます。それにより、ソフトウェアのリリースサイクルが半年や一年から、数分、数秒単位になります。
日本が陥っている「コンピテンシーの罠」
イノベーションにおいて重要なのは気づきと共感です。それらが欠落している日本においては、何が起きているのでしょうか。
コンピテンシーの罠とは
イノベーションの最初のステップである「気づき」と「共感」がなければ問題の定義はできず、イノベーションも生まれません。イノベーションが生まれなければ事業は衰退します。 衰退してくると、多くの企業が過去の技術や成功にこだわるようになります。そのこだわりによって事業はさらに衰退するという、悪いスパイラルに陥ってしまいます。 この状態を「コンピテンシーの罠」といいます。
世界的な変化を感じ取らずにいたツケ
今の日本は、まさにコンピテンシーの罠に陥っているといえます。世界デジタル競争力ランキング2020によると、63か国の中で日本は総合27位。しかし、日本人のデジタルスキルは63か国で最下位、日本企業の敏捷性も世界最低とランク付けされています。
このような状況の大きな要因として、半導体や計算機の成長という変化に気づかなかった、あるいは関心を持たなかったことが挙げられます。80~90年代のデジタル創世記において、日本は本質的な変化にまったく気づいていませんでした。これが日本のデジタル低迷の要因といえます。
気づくための努力が成功につながる
イノベーションの源である「気づき」を得るために、多くの企業や人々は努力をしています。ここで、実際にシリコンバレーで集めた、「気づくための努力をしている事例」を紹介します。
事例01Target Open House
ユニオンスクエア近くのCity target内にある「@openhouse」を紹介。長らくIoT製品のショールームとして有名でしたが、2020年にオンラインゲームのハードやソフトを販売するショップへとリニューアルをしました。
事例02b8ta
b8ta(ベータ)は、スタートアップや個人発明家の商品を取り扱っているショップです。小さなスタートアップのマーケティングの場として活用されています。店内には、消費者が普段は目にしないような面白い商品が並んでいます。
事例03Casper
Casper (キャスパー)はD2Cの経営タイプで、睡眠にとことんこだわった寝具を研究し、販売しているショップです。個々にフィットする寝具をカスタマイズできるのが特徴です。
気づくためのポイント
これらのショップは、商品を販売するのではなく、その場所を訪れるお客様の行動を観察し、データを集めることを重要視しています。観察やデータからいろいろな事象に気づき、商品を開発して展開していく。シリコンバレーには、このような事例がたくさんあります。
イノベーションとは問題解決で、そのきっかけとなる「気づく」という行為は誰でも可能です。まずは気づいて、気づいたら共感して問題を定義する。そして「仮説→検証→修正」を繰り返していけば、必ず目的を達成できます。
今回お伝えしたことをヒントに、体のセンサーを生かしてみてください。考えるのも大切ですが、まずは行動を起こして、いろいろなことに気づく。気づいたらアイデアを試す。失敗してもいいのです。失敗は新たな学びとなるからです。ただし、失敗により全財産がなくなるようではいけません。失敗しても大きな影響がないように、小さなことから始めてみましょう。
最後に3つの言葉を捧げます。
Fail Forward 人生は一度だけ。失敗しながら前に進みましょう。
Now or Never 今しかできないことは、今やりましょう。
Your hope is your future 皆さんの夢が将来をつくる
まとめ
イノベーションというと、「専門的な知識が必要」「ハイテク企業やIT企業が行っているもの」といったイメージが強いのではないでしょうか。しかし今回のセミナーの通り、イノベーションを起こせる可能性は誰にでもあります。
まずは日常生活の中にある、さまざまな問題や課題に気づくことから始める。それを解決するための手段や方法を考えてみる。そして、自分ができることをやってみる。このシリコンバレー流の考え方は、私たちのビジネスにも取り入れることができます。この機会に、自社におけるイノベーション創出の取り組みについて、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
本セミナーは以下よりご視聴いただけます。セミナー本編では、最新事例の動画もご紹介しました。新しいビジネスやテクノロジーの背景をご案内し、既存業態の破壊やイノベーションを生む環境について解説しています。ぜひ、ご覧ください。