緊急事態宣言と社会人としてのスタートがほぼ同時期に重なった2020年新卒入社組。自宅待機、オンライン研修、現場でのOJT不足…かつてこれほど厳しいコミュニケーション環境に置かれた新入社員たちはいたでしょうか?今回は、そんな2020年入社のある社員が、2年目の秋、同期の仲間たちと北海道の富良野にワーケーションに行き、何を感じどう変わったのか、その様子を創作ストーリーとしてご案内します。
入社式の会場に入ると、わたしひとりだった。
目の前には社長がいて、入社への祝辞のあと、ふたことみこと言葉をかけていただいたけれど、それもあんまり覚えていない。入社式を中止する会社や、オンラインで実施する会社が多いなか、リアルで開催してもらえて、1人ずつ順番に社長と話せたことはうれしかったけれど、同期入社のメンバーとは誰とも話せなかった。
そう、それは想像とまったく違った社会人生活のスタートだった。
翌日から在宅でのオンライン研修が始まった。配属は決まったけれど、どんな場所にあるのか、どんな人がいるのか、どんな仕事が待っているのか、よくわからないままのスタートだった。そして2020年4月7日、初めての緊急事態宣言が発令され、長い長い、わたしたちの戦いが始まった。
わたしと一緒に入社した同期は約200人。京都の大学を出て、初めて東京で一人暮らしを始めたわたしにとって、同期のみんなや会社の先輩がたが、新しい世界での新しいつながりの中心になるはずだった。もちろん画面の向こうには研修講師がいて、ときどき受講中の同期メンバー同士のやりとりもあった。けれどもそこはなんだかわたしがいる世界とは違う世界のような気がして、ぼーっと画面を眺めているだけの自分に気づくことも多かった。
パチン。
そう、画面を消してしまえば、それはみんな一瞬で消えてしまうのだ。
卒業前にちょっとしたすれ違いで別れてしまった彼のことを思い出した。こんなことならお別れなんかするんじゃなかった。
緊急事態宣言が明けて、そろりそろりとリアルな出社が始まった。
わたしも初めて自分の職場に足を踏み入れ、上司や先輩がたとマスク越しに対面した。事前にオンラインではつながっていたけれど、いつも「初めまして」って言いそうになって困った。マスクを外した顔も一瞬見せてもらったけど、覚えられる自信ないな、どうしよう。
「本当は盛大に歓迎会をやってあげたいんだけど…」
と初日に課長が言った。
「もう少し落ち着いたら企画するので、それまで待っててね」
その歓迎会は2年後の今もまだ開かれていない。
その後も職場はテレワークが基本になった。わたしは新入社員ということで、最初のうちはわりと多めに出社して、その日在席しているいろいろな方からひととおりのことを教わったけれど、いつもオフィスは閑散として電話もめったにかかってこなかった。
「僕はこういう働き方、きらいじゃないけど、キミはきっと大変だろうね」
わたしのメンター社員はめちゃめちゃクールだ。4年目の先輩でメガネがよく似合う。
リアルで会うのは月に1回か2回。先輩がめったに出社しないので、わたしがそれにあわせて出社する。わからないことがあったらチャットやメールでいつでも聞いていいよ、って言われてるので、業務に必要なことは十二分にコミュニケーションできてたけど、業務以外のこと、例えば…先輩、彼女いるんですか?とか聞けない。もちろん聞くつもりもないけど。
同期とのコミュニケーションはオンライン飲み会が中心だった。金曜日の夜、みんなでオンラインチームビルディング的なゲームをしたり、くだらないことで笑いあっていた。それはそれで楽しかったけれど、年が明け、2回目の緊急事態宣言が発令された1月のある日、だれかがポツリと「みんなで会いたいね」って言った。
急に泣きそうになって、カメラを非表示にした。
4月になって2年目になった。
ひとつ下の後輩たちが新入社員として入ってきたけど、彼らは入社前からオンラインに慣れていたので、わたしたちよりオンラインコミュニケーションのリテラシーが高いようにも見えた。
なんだか一番貧乏くじ引いちゃったのがわたしたちなのかな。
そんなふうに思っていた頃、その知らせが届いた。
社長の肝いりで、2年目の社員を対象に、北海道富良野でのワーケーション希望者を募集するのだという。それは同期のメンバーと3泊4日、仕事をしながら富良野で自然体験をしたり、現地の人々と交流プログラムを行う、といった内容だった。
絶対行きたい、と思った。
参加には上長の承認が必須とあったので、クールな先輩に相談してみた。
「ワーケーション、いいじゃない。僕もやってみたいと思ってたんだ。まかせといて!」
最初、課長は「ワーケーションなんて遊びじゃないの?」と言ってたらしいけど、先輩が論破してくれた言葉がわりとカッコいいのでちょっと聞いてほしい。
「課長、普段と違う空間で、普段と違う人々と遊びながら仕事をするからいいんですよ!机の上でウンウンうなってるだけで、普段出てこない斬新な発想とか、新たなつながりとかイノベーションとか生まれますか?」
そして11月、北の国の短い秋も終わりかけの頃、わたしたち同期の中で1班目として選ばれた6人が富良野の地を同時に踏んだ。
あんなに会いたいね、って話してたのに、実際に会ってみるとなんだか気恥ずかしくて、最初はうまく距離感がつかめなかった。この1年半でずいぶんコミュニケーション下手になったな、わたし。
そんなわたしたちを見越していたのか、最初のプログラムが「コミュニケーションワークショップ」。
富良野はドラマ「北の国から」の舞台として一躍有名になった場所で、自らも富良野に居宅をかまえるその脚本家、倉本聰さんを慕う演劇人が集う町としても知られている。
そんな現役の役者さんから、身体表現を通じ「伝える」と「伝わる」の違いを学んだのは、参加者同士の本当にいいアイスブレイクになった。ちなみに後日聞いたところによると、最初のわたしたちは「まったくダメダメ」だったけど、最後は「まあまあ」くらいまで成長したみたい(笑)。
「46億年地球の道」は46億年という地球の歴史を460メートルの道で表現したもので、長い歴史によって築かれた地球の環境が、人類登場後のほんのわずかな時間で大きく変わったことを知るプログラム。SDGsって声高に叫ばれてるし、地球環境をなんとかしなくちゃならないのはわかっていたけど、こうやってドラマチックな表現や仕掛けで迫ってくるなんて、さすが演劇の町。SDGsは何かの研修でも聞いたけど、こんなにすっとカラダに入ってきたのは初めてだった。
そのほかのプログラムはなんと地元の高校での授業!(と言っても「充実した高校生活を送るためのアドバイス」だったけど、生まれて初めて教壇にたった)、地元の街の方々と富良野の将来についての意見交換、農家での出荷作業のお手伝いなどなど…
現地でのワーク時間には自分の持っていった仕事もできたけど、今回の体験プログラムは自分の本来業務とはほど遠いものばかりだった。先輩は『遊びながら仕事をする』とか楽しそうなこと言ってたけど、普段使わない部分の脳をたっぷり使ってめちゃめちゃ疲れた。遊びとか言わないでください(笑)。
富良野自然塾のファシリテーターの方が今回のワーケーションをこんなふうに表現してくれた。それは「自然の中で視点を変える旅」。
人類の視点と動植物の視点、現在と過去、自分と相手、消費者と生産者、大人と若者、そして都市と地域。
わたしたちはコロナ世代なんて言われ始めてるし、確かに社会に出て一番大事な時期にコミュニケーションの取り方で迷子になってしまったんだと思う。わたしが入社して一番最初に感じた、わたし(こちら)の世界と違う(あちら)の世界。わたしたちはオンラインでのコミュニケーションを通じて知らず知らずのうちにそんなふうに世界を分け始めていたのかもしれない。
でもそれは違ったのだ。世界の向こうにはわたしと同じ生身の悩める誰かがいて、世界(視点)が変われば、そこにはわたしたちと違うルールとゴールがあるのだ。
先輩が言った『普段と違う空間で、普段と違う人々と遊びながら仕事をする(遊びじゃないけど!)』ってこういうことなんだな、と思った。もちろんすぐにイノベーションにつながるかどうかはわからないけど。
最終日、参加者のそれぞれが今回のワーケーションを通じて感じたことを一文字で表現することになった。
「聴」、「勇」、「伝」、「感」、「繋」。
そしてわたしが書いた一文字は「談」
今回、なんといっても同期のみんなとさりげない雑談や相談が気軽にできたことがうれしかった。
でも、わたしには雑談や相談をしたい人がまだまだたくさんいる。チームのみんなでここに来て、一緒にコミュニケーションワークショップをやってみたい。課長、恥ずかしがらずにできるかな。新しい商品開発についてのブレストも、いつもと違うメンバーを入れてやってみたい。ワークショップで知り合った、スナックのママとか鉄板焼き屋の大将だったらびっくりするようなアイディア出してくれそう。そっか、夜みんなでお店に行けばいいのか。
そして最後にクールな先輩。わたしはあなたと富良野の森でくだらない話がしたいです。
そのときは彼女いるんですか?って聞くかもしれないので、そっと答えを教えてくださいね。
ダウンロード資料 【企業版】富良野ワーケーションのすすめ
北海道のほぼ中央に位置する富良野市。雄大な十勝岳の眺めや、一面に広がるラベンダー畑、脚本家・倉本聰氏が手がけたテレビドラマ「北の国から」などに描かれた豊かな大自然で知られています。そんな富良野市は、官民が一体となってワーケーションの誘致を積極的に行い、北海道内外から注目を集めています。企業のご担当者様向けに富良野ワーケーションの魅力をまとめました。ぜひ、ご覧ください。