感染症拡大によるテレワークの浸透で注目を集めるようになったワーケーション。国の観光戦略実行推進会議でも取り上げられ、JTBが企業の総務人事担当者を対象に行ったアンケートでは、83%の方がワーケーションという言葉を知っていると回答しています。また、多くの自治体ではワーケーションを受け入れるための取り組みが始まっています。そんな中、企業側においては、積極的に導入しようと考える人もいれば、ちょっと消極的に捉えている人もいるのが事実です。今回は、JTBが総務人事担当者を対象に実施した「ワーケーション導入に関するアンケート」の結果を通じて、積極派と消極派がそれぞれどう考えているのか?ワーケーションの「現在地」とともに今後のヒントを探ります。
「興味あり」は60%も、「導入済」はわずか4%に留まっている。
先に紹介したワーケーションに関するアンケートでは「ワーケーション」という言葉の認知度は83%でしたが、さらにワーケーションに「興味がある」と回答した人は60%と半数以上となっています。
Q4ワーケーションに興味ありますか?(n=135)
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また働き方の違いによるワーケーションへの興味度合いを比較してみると以下のような結果になりました。
「興味が非常にある/ある」と回答した人の比率が最も高かったのは、「オフィスワークとテレワーク半々」の働き方をしている方々(72.7%)。次に高かったのは、「オフィスワーク中心」の働き方をしている方々(70.5%)でした。それぞれ7割くらいと比較的高い数値になっていますが、中でも「オフィスワーク中心」の働き方の方々も高い数値だったのは意外な結果でした。
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オフィスワーク中心(n=61)
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リモートワーク中心(n=11)
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オフィスワークと
リモートワーク半々(n=44)
なお、ワーケーションの導入について聞いてみたところ、すでに導入していると回答した人はわずか4.4%に留まっています。
Q6お勤めされている企業では、ワーケーション制度を導入されていますか?(n=135)
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積極派と消極派 それぞれの胸の内は?
次に、ワーケーションに対して積極的に捉えている人と消極的に捉えている人、それぞれの目線で見ていきます。
積極派は中長期的な目線で見ている人が多い!?経営層も戦略の1つとして検討。
ワーケーション導入を積極的に捉えている人からは次のような声が寄せられました。社員のモチベーションや健康、組織の生産性のほか、自身のライフプランやキャリアなど、中長期の目線に立った声が特徴的でした。
<アンケートに寄せられたコメント>(一部紹介)
- 生産性向上及び健康管理のため必要な事項と考えており、社員のモチベーションにも通じるものであると考えられるため今後検討してみたい。
- 利用できる職種が限定される等の課題はありますが、可能であれば組織活性化の一環として導入しても良いと思います。
- ワーケーションが拡大すれば、本業と副業の相乗効果で、自分自身のQOLの上昇、次なるビジネスへの接点構築、人との繋がり、将来的な起業へのチャンスも生まれると考えています。
また、アンケートでは「制度導入の決定権がある」と回答した人の方が、よりワーケーションに興味を持っているという結果が出ています。理由を見てみると、最も多いのが「最近よく耳にする(目にする)ことが多いから」となっており、2番目が「働き方改革が推進できそうだから」となっています。組織改革や働き方改革に責任を持つ層が、ワーケーションを有効な1つの手段として検討し始めていることが伺えます。
Q4ワーケーションに興味ありますか?
(制度決定権者のみ)
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Q4ワーケーションに興味ありますか?
(制度決定権者以外)
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Q5Q4で「非常にある」「ある」とお答えいただいた理由をお聞かせください。(複数回答)
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消極派は効果に疑問あり!ワーケーション、ほんとに必要?
「興味がない」理由を聞いてみたところ、最も多かったのは「仕事と休暇は完全に分けてもらいたいから」、次に多かったのは「必要性を感じないから」でした。
Q5Q4で「ない」「全くない」とお答えいただいた理由をお聞かせください。(複数回答)(n=20)
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また次のような声も寄せられました。コメントからも消極的な方は、ワーケーションの効果に疑問を持っていることが伺えます。またワーケーションについてまだ理解が深まっていないので判断できないという声も聞かれました。
<アンケートに寄せられたコメント>(一部紹介)
- 現実的な普及は会社と従業員の費用負担割合が一番の課題と思う。
- 従業員が自ら進んで活用したい仕組みなのか、非常に疑問。休日に会社の携帯を持つ(持たされる)だけでもウンザリとの声が多い中、むしろモチベーションが下がると思われる。
- こればっかりは経営者の意識改革が重要です。国が経営者層に働きかける世情になってほしいと思います。
- 小中学校のオンライン出席が可能にならないと子育て世帯では平日では活用できない
- あまりなじみがない事柄なので、良し悪しの意見がでない。
- ワーケーションについてよくわからない。
人々はワーケーション導入に何を求めているのか?
次にアンケートの結果から、導入する側・活用する側の双方が「ワーケーション導入に求めているもの」について見ていきたいと思います。
ワーケーション導入に期待される効果とは?
導入する側・活用する側ともに、それぞれが最も期待している効果は「モチベーション向上」でした。「多様性のある働き方の浸透」も高い結果に。ワーケーションを経験すること=多様性のある新しい働き方が実践でき、モチベーションアップにつながると考えている方が多いことが伺えます。
Q13(一般社員・契約社員・その他以外を選択された方)ワーケーション制度を導入している、または導入予定(もしくは導入されると仮定して)にあたり、部下や従業員、組織に対してどのような効果を期待しますか?(複数回答)(n=112)
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Q13(一般社員・契約社員・その他を選択された方)ワーケーション制度を導入している、または導入予定(もしくは導入されると仮定して)にあたり、部下や従業員、組織に対してどのような効果を期待しますか?(複数回答)(n=23)
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ワーケーションを通じて取り組んでみたいことは?
「非日常でリフレッシュする」が、導入する側・活用する側ともに一番高い結果となりました。次いで導入する側が「スキルアップ」「健康増進」に取り組んでもらいたいと考えている一方で、活用する側は、様々な地域、拠点で働いたり休暇を過ごしたりと「オフィスや自宅を離れて過ごす」ことを重視している傾向にあるといえます。
Q14(一般社員・契約社員・その他以外を選択された方)ワーケーション制度を導入している、または導入予定(もしくは導入されると仮定して)にあたり、部下や従業員にワーケーションで取り組んでもらいたいことをお聞かせください。(複数回答)(n=112)
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Q14(一般社員・契約社員・その他を選択された方)ワーケーション制度を導入している、または導入予定(もしくは導入されると仮定して)にあたり、部下や従業員にワーケーションで取り組んでもらいたいことをお聞かせください。(複数回答)(n=23)
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まずは知ること!まずはワーケーションを体験してみませんか?
ワーケーションを積極的に捉えている人は、ライフスタイルや自身のキャリアなど中長期的な目線で見ており、組織変革や働き方改革を押し進める経営層も施策の1つとして検討し始めていることが伺えました。一方、消極的に捉えている人は、「なぜ、休みに仕事?」とワーケーションの効果に疑問を抱いている方が多いことがわかりました。しかし、アンケートの結果では、ワーケーション体験者はわずか2%です。「認知→理解→共感→実践→協働」の行動変容モデルでいえば、「認知→理解」のフェーズかと思われます。もっと多くの人がワーケーションを体験してみて、その効果の有無を自ら確かめないといけない段階なのかもしれません。
山梨大学生命環境学域 田中 敦教授らによると、企業の社員を対象としたワーケーションのタイプは3つに分けられます。1つ目は「休暇活用型」です。これは有給休暇中に半日または1日だけ仕事の時間を設けるものや出張先でそのまま休暇を取る(ブリージャー)といったタイプのもの。2つ目は「日常埋め込み型」です。リゾート地に設けたサテライトオフィスや場所の指定がないテレワークが代表例です。そして3つ目が「オフサイト会議・研修型」で、リゾート地や温泉地で行われるミーティングや研修などです。
本来はこうしたタイプの違いにより、ワーケーションに送り出す企業や参加する社員が求める目的も違うはずですが、ワーケーションという言葉にひとくくりにされたまま、しっかり議論がなされていないのが現状です。
出典:「日本国際観光学会論文集」第27号(20年3月発行)掲載論文
『日本型ワーケーションの効果と課題 定義と分類、およびステークホルダーへの影響』
これから先、労働生産人口の減少から「働く場所・働く時間」の多様化は避けられないでしょう。働き方改革をさらに進めるため、まずはワーケーションについて理解を深めてみるのはどうでしょうか?「みんなで体験してみる」「経営層自らが体感してみる」ことが次の一歩なのかもしれません。
WEBマガジン#Think Trunkはワーケーション導入を目指す企業、ワーケーションを実践する人を応援します!今後、ワーケーションの導入事例やモニターツアーの情報など随時発信していきます。ご期待ください!
今回実施した「ワーケーション導入に関するアンケート」のサマリーをご用意しました。ダウンロードいただきご参考にしていただければ幸いです。
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