今年度は新型コロナウイルスの感染拡大とともにスタートしました。3密を避ける動きは新入社員研修についても同様で、業界業種問わずさまざまな企業がオンライン形式で研修を行いました。
オンライン研修には利点がある一方、「同期の意識が希薄になる」「一人ひとりの感情やモチベーションを把握しづらい」などの課題が見え始めています。皆さまの会社でも、同じようなことが起こっているのではないでしょうか。
このコラムでは、今年度にオンライン新入社員研修を行ったある企業のアンケートをもとに、オンライン新入社員研修の課題と今後の新入社員育成のポイントを探っていきます。
オンライン新入社員研修に取り組んだ企業があげる利点と課題
まず、オンライン新入社員研修の利点と課題をみていきましょう。
オンライン新入社員研修の利点
オンライン新入社員研修の利点として、参加のしやすさや受講者の習熟度の見える化などが挙げられます。
オンライン新入社員研修の課題
オンライン新入社員研修の課題として、学習形態の偏りやコミュニケーションの不足が挙げられています。
このような状況のなか、ある企業(サービス業)が、2020年度新入社員の「直属の上司(ラインマネジメント職)」を対象にオンライン新入社員研修についてのアンケートを行いました。
ここからは、アンケートの回答者がオンライン研修を実際に受けた新人たちと直に接したことで感じた課題を3点ご紹介します。
アンケートから見えた、オンライン新入社員研修の3つの課題
アンケートで多くの上司が、オンライン新入社員研修の懸念点として挙げているのは次の3つでした。
研修期間中に聞かれた新入社員の声も交え、具体的に見ていきます。
課題01モチベーションやエンゲージメントが醸成されない
「新入社員の上司」としての懸念点で1番多かったのは、「本人のモチベーションやエンゲージメントが低下していないか」という点でした。在宅で終日PCに向かうだけの状況が続き、集中力低下やモチベーション維持が難しいことが不安材料となっているようです。
一方で、当の新入社員たちはどのように感じているのでしょうか。研修期間中、「よく聞かれた新入社員の声」としては、
- 働きたい意欲が増した
- 早く営業に出たい、早く現場に出て働きたい
- 今できることをしっかりやりたい
- インプットばかりで、アウトプットしたい
などが挙がっています。
「働き始めた実感がない」「社員になった実感がない」といった意見が一部あるものの、新人自身がモチベーションを低下させている様子はあまり見られません。むしろ前向きな意見が目立ちます。新入社員にとってこの「出社できない」状況は、マイナスの影響より「早く活動したい」というプラスのエネルギーになっていると推察されます。
課題02会社で働くイメージがつかめていないまま業務へ
2番目に多かったのは、「在宅勤務や休業が多く会社で働くイメージがつかめていない」という意見です。現場での指導不足、知識不足のまま繁忙期を迎えることや、学生から社会人への気持ちの切り替えがうまくできているかどうかといった懸念点が挙げられています。
この状況に関しては、新入社員が感じる不安も大きいようです。
- 営業再開後、ちゃんとついていけるか不安
- 休業中、勉強しているが、正しく理解できているか心配
- 例年の新入社員と比べて、自分が劣る気がする
- 仕事を覚えるチャンスが少ないのが残念
「研修後に実際の仕事に取り掛かれるかどうか」といった焦りや不安、研修に対する不満足感をもつ様子が見受けられます。
課題03同期や社員とのコミュニケーション不足
3番目に多かったのは「組織のつながり・同期や同世代とのつながりやコミュニケーション」を心配する意見でした。オンライン研修でも、グループディスカッションやワークに取り組むことは可能ですが、実際に会ったり話したりする機会はありません。
新入社員からも、コミュニケーションや人とのつながりについて、不安を感じたり孤独感に苛まれたりするといった声が多数ありました。
- 誰ともしゃべらない日があり、一人暮らしの在宅勤務が辛い
- 同期との情報交換ができない
- 同期が誰かもわからない
- メールでの質問が、先輩の迷惑になっていないか
同期や先輩とコミュニケーションが取りたくても、相手がわからなかったり遠慮の気持ちが出てしまったりなどから、積極的に行動できないことがうかがえます。
オンライン新入社員研修の課題に対し、企業が取るべき施策とは?
では実際に、企業はこれら課題に対してはどのようなポイントに留意し、新入社員育成に取り組めばよいのでしょうか。同アンケ―トでは「今後の『新入社員研修に関する教育』において、ぜひ取り入れたい内容」について、さまざまな意見が挙がっています。ここからは、それらの意見から見えてきた、オンラインコミュニケーション時代の「新入社員研修のポイント」を3つご紹介します。
施策01きめ細やかなコミュニケーションができる機会の創出
アンケートでは、「新入社員同士がコミュニケーションを取れる場を創出してほしい」「不安に感じていることを吸い上げる機会を作ってほしい」といった、コミュニケーションの場づくりの大切さを訴える意見が多く挙がりました。
この課題については、すでにさまざまな企業が次のような取り組みを行っています。
■テレビ会議システムを活用しランチ会を遠隔で実施(コンサルティング会社)
打ち合わせや研修に利用する会社のテレビ会議システムと使い、全拠点をつないだ朝礼やランチ会を実施。各地の実情や意見を交換する機会の創出や、相互の親睦の深化に寄与。
■トレーナーや新入社員同士の交流を深めるためのライブコミュニケーション(印刷業界大手)
新入社員約420名をネットワークでつなぎ、約20人に1人の割合でトレーナーを配置。朝・昼・夜のライブコミュニケーションで相談できるサポート体制を整えつつ、動画やライブ配信を通じて学習を進める。
■まだ見ぬ先輩たちへ~新入社員からのごあいさつ~(コンテンツ制作会社)
新入社員の「会社でやってみたいこと」「現状に対する不安」などの自撮り写真と一緒に紹介。その後人事が回答することで、双方性のあるコミュニケーションを可能に。
細やかなコミュニケーションを取る工夫をすることで、新入社員に「大切にされている」「企業にとって必要な存在だ」と感じさせることが、不安や遠慮の気持ちを払拭し、積極的にチームや仕事に関わる気持ちを醸成するのではないでしょうか。
施策02会社のビジョンを示し、方向性をしっかりと提示する
「仕事や将来に対する不安」に対しては、企業としてのビジョンや経営姿勢をしっかり示すことが重要になります。実際に行われている施策には、次のような事例があります。
■企業トップと新入社員が直接対話できるオンラインMTG(大手人材会社)
タウンホールミーティングと呼ばれる手法。オンラインで経営陣と全社員が対話、その中で経営層が自社の考え方や方針を社員と共有しディスカッション・チャットでの質疑応答・アンケートなどを実施する。
■インセンティブイベントをリアルとオンラインのハイブリッド開催(大手旅行会社)
表彰式などのインセンティブイベント。受賞者を会場に招き、その模様を他の社員全員で視聴することで、受賞者に満足度を、他の社員に感動や臨場感を与える。
■行内放送局の専用スタジオから行内向けにWeeklyニュースを配信(大手銀行)
文字だけでは不十分な伝達になる問題を解決するために、行員向けのニュースを配信し理解の標準化を実施。動画コンテンツ制作のノウハウ蓄積や社内コミュニケーションの活発化につながった。
先行きが不透明な今、新入社員だけでなくすべての社員が不安を覚えています。会社・部署・チームが一体となって、向かうべきビジョンを共有できる機会が求められています。そこから新入社員のモチベーションやエンゲージメントも、さらに向上するのではないでしょうか。
施策03オンラインコミュニケーションが当たり前の時代を見据えた教育をする
アンケートの中には、「こんな時代だからこそ、オンラインコミュニケーションが当たり前となる時代の到来を見据えた取り組みを研修で行いたい」という意見が挙がっていました。大手企業では「ジョブ型人事制度」の導入が進んでいる最中です。これからは自ら考え判断し、課題解決をしていく「自律型社員」の教育も必要になると考えられます。
たとえば、実際に以下のような施策が実施されています。
■Zoomを使った「同期の交流を深めるワーク」(企画から協働までを体験)(コンサルタント会社)
新入社員自ら企画・提案・協働体験までの一連の流れを体験する研修。チームでアイデアや意見を出し合い、PDCAを回し、実際に企画したワークを体験する。
■社会的課題解決に向き合うグループワーク(大手印刷会社)
障がい者アーティストと連携し作品をより価値の高いものにするワークやウイルス感染拡大のなかで「何ができるか」について先輩社員と討議などを実施。
「従来の研修をいかにオンラインで再現するか」に囚われることなく、これからの時代で必要になる新入社員研修の在り方を検討する必要もあるのではないでしょうか。
まとめ
オンライン新入社員研修という初めての試みによって、これからの研修の在り方やその課題が見えてきました。また、在宅勤務やオンラインでの仕事が当たり前になることに加え、新しい評価基準を見据えた社員教育も必要であることが、今回のアンケートで顕在化しています。時代のニーズを見据えた取り組みは、新入社員研修でも求められています。今回紹介した3つのポイントをヒントに、ぜひ新しい時代の新入社員研修を構築していてみてはいかがでしょうか。