新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業でテレワークの導入・定着が進み、働き方が大きく変化しています。
テレワークとオフィスワークのハイブリッドな働き方が浸透するなか、「社員のモチベーションや生産性を向上させるためにはどうしたらいいのだろう」と悩む企業は少なくありません。
今回は、10年以上前からテレワークを導入しているサイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)の人事本部兼チームワーク総研アドバイザー・鬼頭久美子さんに、「テレワークでもイキイキ社員を増やすコツ」についてお話をうかがいました。
子育て社員の声をきっかけに、10年前にテレワーク制度を導入
サイボウズがテレワークを導入したのは10年前、子育て中の社員からテレワークを求める声が上がったことがきっかけでした。当時は、働く場所はオフィスに限定していましたが、子育て中かどうかに限らず、社員を集めてディスカッションしたりし、賛成・反対、さまざまな意見を聞きながら試行錯誤しつつ導入を進めました。
テレワーク導入の目的としては、次の4つがありました。
全社員がテレワーク勤務になったことによるメリット、デメリット
10年前からテレワークを導入してはいたものの、それまではオフィスワークをメインとする社員が8割で、テレワークを実施する社員は一部に限られ、頻度も週2日ほどのケースがほとんどでした。コロナ拡大後は、全社員が在宅勤務に。サイボウズでも、数カ月にわたって全社的にテレワークを実施したのは初めてのことでした。その結果、次のようなメリットとデメリットがありました。
01メリット:テレワーク推進に向けて、全社員が工夫をし、関係性もフラットに
全社員が長期間の在宅勤務となったことで、「在宅で働きやすくするためにどうしたらいいか」「コミュニケーション不足をどのように解消するか」など、テレワークについて全社員が、それぞれに議論したり試行錯誤を始めたことは、大きなメリットでした。
また全員がテレワークになったことで、オンライン会議の際の参加者同士の関係性がフラットになり、よりよいコミュニケーションを模索するようにもなりました。以前は、オフィスの会議室とテレワークの社員をオンラインでつないでいても、オフィスワークの社員がメインで、テレワークをしている社員がそこに参加する、という感じになりがちでした。両者に情報格差や距離感がうまれていたことに気付き、改善を行うことができました。
02デメリット:チームや部署を超えたコミュニケーションが減少した
デメリットは、リアルなコミュニケーションがなくなり、自分が所属するチームや部署以外のメンバーと話す機会が減少したことです。
サイボウズでは以前から、社内のコミュニケーションを活性化するためにさまざまな取り組みを行っています。全社を挙げての創業記念祭や、チームを超えたランチミーティング、勉強会などです。コロナ後はこうした取り組みをオンラインで継続しています。また、会社の公式イベントとして、Zoomの使い方勉強会を行ったり、小さな子どもを持つパパ・ママ社員で集まったり、話したことのない社員同士のオンラインイベントをとても活発に実施しています。ほかにも、社員が自発的にオンラインで交流する機会も増加しています。
また、企業理念や自社の風土・文化、コミュニケーションのあり方などについて議論する場を日常的に設けています。社員が自発的に呼びかけて、オンラインで議論することもあります。ビジョンは飾っておくだけでは意味がなく、ブレイクダウンして具体的な目標に落とし込み、どの程度達成できているか、達成するにはどうするかを話し合う時間をつくることが大切だという企業風土が根付いているからです。
テレワークでもイキイキ社員を増やすためのポイント
サイボウズでは「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念を掲げていますが、ここにテレワーク成功の鍵があると考えます。チームの目標を共有し、その実現に向かって自分の強みを生かすことこそが、イキイキと働くことにつながると実感しています。
イキイキと働く社員を増やすためには、さまざまな工夫が必要です。環境(ハード面)、心構え(ソフト面)の両面についてお伝えします。
イキイキ社員を増やすための「環境づくり」(ハード面)
01テレワークでも、できる限りオフィスと同等の環境を整える
サブディスプレイ、ヘッドフォン、椅子などの設備を整えることで、在宅で働く社員の負担を軽減できます。オフィスにいるときと同等の環境や、長時間自宅で働くことを前提とした環境を、社員の自宅に揃えることが理想です。
サイボウズでは、ディスプレイなどの業務に関わる物品は、申請により基本的に支給しています。これに加えて、在宅手当として一時金3万円が支給され、社員それぞれがテレワークで必要になったものを購入しました。一時金の用途に制限はありません。仕事用の机や椅子など業務に関わるものだけでなく、扇風機、自粛期間中、子どもが一人で遊べるようにと、子ども用のTVやタブレットなど、用途はさまざま。社員にとって心地よいテレワーク環境をつくることに役立ちました。
02情報をオンラインで共有する仕組みをつくる
テレワークでは社員によって働く場所、時間が異なるため、すべての情報をオンラインで共有することが不可欠です。ITツールを活用し、情報共有の仕組みを確立する必要があります。日頃から、業務情報を共有するだけでなく、申請・承認などのワークフローもオンラインで完結できる環境を整えています。
また、自社製品のkintoneやGaroonを使い、全社員があらゆる情報にアクセスできる環境を整えています。こうしたグループウェアのスレッド上で個人の日報、分報(Twitterのように気軽に投稿する業務報告)を共有することはもちろん、経営に関わる戦略会議などもオンラインでオープンになっており、自由にジョインできたり、議事録を確認することができるようになっています。
イキイキ社員を増やすための「心構え」(ソフト面)
01離れているからこそ、コミュニケーションを大切に
テレワークでは、直接会って会話することができません。だからこそ、業務に関わる情報をやり取りするだけでなく、個人のコンディションや感情まで含めて共有することが大切です。モヤモヤした感情や孤独感をため込まず、チームや上司と共有する環境を整えておきたいものです。共感し合ったりアドバイスし合ったりすることで、離れていても一体感を醸成でき、信頼関係を築くことにつながります。
サイボウズでは、上司と部下のコミュニケーションのため普段から1on1の時間(「ざつだん/ザツダン」と呼んでいます)を2週に1回、30分ほどとっていたのですが、全社的にテレワークを導入した後は、必要に応じて頻度を高めました。業務のことだけでなく、プライベートの悩みなども話し合い、丁寧なコミュニケーションを重ねることに注力しています。
02丁寧に言語化することを心がける
Face to Faceのコミュニケーションであれば、自然と雰囲気や空気感が伝わるものですが、テレワークではなかなか難しいもの。だからこそ、上司、マネージャーは、プロジェクトの目的や意思決定の背景を丁寧に言語化するよう心がけています。これによって、タスクの優先順位が明確になり、社員は自信を持って働けるようになります。
また離れているからこそ、ポジティブな声がけを意識しています。業務上の指摘をメールなどのテキストで行うと、冷たい印象を生んでしまいがちです。部下の作業についてよかった点を褒めたり、失敗したとしても「今回は残念だったけれど、次に生かそう」などと共感を伝えたりすることが大切です。
テレワークを導入、拡大していこうと考えている企業へ
01コロナ禍で得た学びを捨てずに、チャレンジを継続して
「この業務だけは絶対オフィスでないとできない」という“聖域”を一度取っ払い、テレワークにチャレンジしてみることが組織力を高めることにつながるはず。このコロナ禍で得た学びを捨てずに、ぜひ継続して試行錯誤してほしいと思います。「まずはやってみる」の精神で、最初に決めたルールに固執せず、運用して現場の声を聞きながら柔軟に対応していくことがおすすめです。
02社員一人ひとりの感情や人間関係にしっかり目を向ける
テレワークは、「業務効率や生産性をどう上げるか?」に目が向けられがちですが、働く社員の感情やコンディション、人間関係にもしっかり目を向ける必要があります。上司、管理側はもちろん、メンバー同士にも、今まで以上に丁寧なコミュニケーションと、鋭敏な察知力が求められるでしょう。
テレワークの最大のメリットは、人生の選択肢が豊かになること
サイボウズでは、「100人100通りの働き方」を実現する「働き方宣言制度」を実施しています。チームと話し合い、社員それぞれが自らの働く場所、働く時間を宣言して実行しているのです。私自身もこの制度を活用し、家族の事情で勤務地を東京オフィスから大阪オフィスに変え、継続して同じ仕事を続けています。「引っ越しをしても、東京にいるときと同じ仕事がしたい」という”わがまま”が言えたこと、そしてそれを実現できたことはとてもありがたかったですし、仕事に対するモチベーションにつながりました。
テレワークは、働く場所や時間の制限がなくなるだけでなく、これまでと違った多様な働き方を実現することができます。複業したり、地域貢献のために地元に戻ったり、プライベートを重視して短時間勤務をしたりと、働き方の選択肢は今まで以上に広がります。テレワークの最大のメリットは、人生の選択肢が豊かになり、一人ひとりの幸せをより追求できることではないでしょうか。
【お話をうかがった人】
サイボウズ株式会社 人事本部兼チームワーク総研アドバイザー
鬼頭久美子さん
チームワークこそが仕事の醍醐味。多様なメンバーが活き活きして、多様な組織が活性化する、そんな社内をつくりたい。2児の母&時短アドバイザー。国家資格キャリアコンサルタント。
テレワークをはじめ、働き方や生活が大きく変わろうとしている今、社員が最大限のパフォーマンスを発揮するためには、「働き方」のイノベーションを起こすことが必要です。
「変わるなら、今でしょ! 新たな働き方改革『レイワークイノベーション』」では、新たな働き方、新たな価値に応えるさまざまなソリューションをご紹介しています。
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