COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に長年の喫煙習慣などにより生じる肺の疾患です。慢性・進行性の疾患で、早期診断・治療が求められていますが、未受診の方が多いという課題があります。この度、本課題に取り組んできた国内最大級の製薬会社であるアストラゼネカ株式会社とCPODの疾患の認知向上や、また早期受診の重要性を知っていただく啓発活動を目的に、JTBのパートナー企業であるタクシー乗務員を対象にしたCOPDの疾患啓発プロジェクトを実施しました。製薬会社と旅行会社という異なる業界の企業が、社会課題に対し、それぞれの強みを活かした連携事例です。
本プロジェクトは、
アストラゼネカのオープンイノベーションネットワーク「i2.JP」のサイトでも紹介しております。
- 背景
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COPDは、認知度が低く、未受診率・未診断率が高いことが課題のひとつです。進行すると少しの動作で息切れするなど、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。厚生労働省の調査によると、推定有病患者数が約530万人とされる中、治療を受けているCOPD総患者数は約36.2万人(約7%)と報告されています。
さまざまな関連団体、製薬企業が、市民講座やテレビCM、新聞記事広告などの手法を用いてCOPDの啓発に取り組んでいますが、リスクのある方に情報が届きにくく、残念ながら認知度は低いままでした。
- 課題
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- COPDの認知度が低く、未受診・未診断の方が多い
- COPDのリスクを持ちながらもリスクに気付いていない方々に、COPDの疾患、早期受診の重要性に関する情報を届けることが難しい
- 実施概要
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日本交通株式会社のタクシー乗務員を対象にした疾患啓発プロジェクト
喫煙者が多いタクシー乗務員にターゲットを絞り、啓発活動を行った。
日本交通株式会社は、JTBのパートナー企業であり、本プロジェクトが実現した。取り組みのポイント
- 事前にチェック項目でスクリーニングを行いCOPDのリスクある方を抽出、その方たちに対して疾患啓発セミナーを実施
- セミナー前後のアンケートを通して受診意向の変化や行動変容を検証
- 2022年8月 パイロットプロジェクトとして日本交通赤羽営業所のタクシー乗務員約600人を対象にセミナーを開催
- 2022年9月から全社展開(日本交通グループのタクシー乗務員 約5,300名が対象)
セミナー内容
ライブ中継の集合視聴、動画の集合視聴・個人視聴の3つの方法で参加
- 呼吸器内科専門医による講演(30分)
COPDがどのような疾患か、リスクがある場合の受診の重要性、治療についてなど - Q&A10分
調査関連
- アンケート設計・調査(設問設計、アンケートフォーム構築・集計分析)
- COPD-PS(COPSのスクリーニング質問票)発信
- レポート作成
啓発関連
- セミナー企画立案
- セミナー資料制作
- セミナー会場手配
- 講師手配、講師謝礼
- セミナースタッフ手配
- 録画・動画作成&配信
- 導入効果
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今回プロジェクトを実施してくださった日本交通は、健康増進施策を積極的に推進されていることもあり、ポスターを貼り出したり、対象の方に何度も声掛けするなど、積極的に活動してくださいました。
事前アンケート回答者551人のうちセミナー対象者は120人、そのうち8割を超える96人がセミナーを受講しました。喫煙率が高いと言われるタクシー乗務員の方々に、COPDの問題を“自分事”として捉えてもらい、事後アンケートでは喫煙者の内約6割が禁煙・減煙をするなど、健康意識が高まりました。セミナーが無ければCOPDのリスクに気付かない可能性が高かった方たちがリスクを知る機会になったという点で、一定の効果がありました。
- 共創パートナーの声
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COPDのリスクのある方に情報を届けられないことに悩んでいたので、タクシー乗務員の方々にターゲットを絞った啓発活動という提案を受け、「ぜひやってみたい」と思いました。製薬会社が直接コミュニケーションするのは主に医師なので、医師を通して患者さんにアプローチすることはできても、病院に来ない人には情報が届きづらいという課題があります。
特にCOPDは未受診の方が多いので、一般企業で働く方々に啓発を行うというアイデアは、「COPDの潜在患者に直接アプローチする」という課題にマッチしていました。ただ、私たちは普段、啓発活動において一般の企業の方と直接話す機会が限られているので、製薬業界特有の業界ルールや細かな注意事項を日本交通さんに伝える際にも、JTBさんという緩衝材のお陰で、安心してやり取りができました。
- ポイント
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「COPDの潜在患者に直接アプローチする」というアストラゼネカが抱えていた課題に、JTBのパートナー企業というネットワークを活用することで、新しい解決策を検討することができました。1社では解決が難しいことも、他の企業や学校、自治体など、これまでになかった新たなパートナーと連携することで、課題解決に近づくことができます。
- 担当者紹介